日本での在留資格変更許可申請:知っておくべき種類、条件、手続き、注意点
はじめに:在留資格変更許可申請とは
日本で中長期的に生活する外国籍の方は、何らかの在留資格(いわゆる「ビザ」)を持って活動しています。この在留資格は、日本で行うことができる活動内容を定めたものです。例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ方は、主にエンジニアや通訳などの業務を行うことができます。
しかし、キャリアアップのための転職、社内での役割変更、独立・起業、あるいは日本人や永住者との結婚など、日本での活動内容や身分関係が変化することがあります。このような場合、現在の在留資格では認められていない活動を行うことになるため、行う活動内容に対応する別の在留資格に変更する必要があります。この手続きを「在留資格変更許可申請」といいます。
適切な手続きを行わずに、現在の在留資格で認められていない活動を続けることは、不法就労や資格外活動となり、罰則の対象となるだけでなく、今後の在留資格更新や永住許可申請に重大な影響を及ぼす可能性があります。
この記事では、日本で働く外国籍の方がキャリアや働き方の変化に伴い、在留資格変更許可申請を検討する際に知っておくべき基本的な知識、手続きの流れ、必要書類、そして注意点について詳しく解説します。
在留資格変更が必要となる主なケース
在留資格の変更が必要となるのは、現在の在留資格では許可されていない活動を日本で行う場合です。主なケースとして、以下のようなものが挙げられます。
-
キャリア関連での変更:
- 現在の会社で、担当業務が在留資格「技術・人文知識・国際業務」の範囲を超えるものに変更になった場合(例:エンジニアから経営企画部門の責任者になったなど)。
- 別の会社に転職し、その転職先の業務内容が現在の在留資格で認められていない場合(例:エンジニア職から飲食店経営に転職など。ただし、多くの場合、転職に伴う手続きは在留資格の「変更」ではなく「期間更新」と「所属機関に関する届出」で済みますが、業務内容が大幅に変わる場合は変更が必要になることがあります)。
- 会社員として働いていた方が独立して事業を開始する場合(「技術・人文知識・国際業務」から「経営・管理」へ)。
- 専門性の高い業務に従事しており、「技術・人文知識・国際業務」から「高度専門職」へ変更することで優遇措置を受けたい場合。
- 社内異動で海外支店から日本の本社へ転勤する場合(「企業内転勤」へ変更)。
-
身分・地位関連での変更:
- 留学ビザで滞在中に日本の企業に就職が決まった場合(「留学」から「技術・人文知識・国際業務」などの就労系資格へ)。
- 日本人、永住者、または特別永住者と結婚した場合(就労系資格や留学などから「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」へ)。
- 永住者または特別永住者の実子または特別養子になった場合(「定住者」へ)。
- その他、特定の身分に基づいた在留資格(例:「家族滞在」)から、就労可能な在留資格へ変更したい場合(学業を終えて就職するなど)。
これらの例は一部であり、個々の状況によって最適な在留資格や必要な手続きは異なります。
在留資格変更許可申請の基本的な条件
在留資格変更許可申請が認められるためには、いくつかの基本的な条件を満たす必要があります。これらの条件は、変更を希望する在留資格の種類によって異なりますが、共通する一般的な要件も存在します。
1. 共通の基本要件
- 申請者の適格性:
- 善良な素行であること。日本の法令を遵守し、日常生活においても法律に違反するような行為を行っていないことが求められます。
- 独立の生計を営むに足りる資産または技能を有していること。これは、日本で安定した生活を送るための経済基盤があるかを確認するものです。変更後の在留資格に応じた収入や資産が審査されます。
- 在留状況:
- 現在の在留資格に基づき、適正な活動を行っていること。
- 現在の在留状況が良好であること(過去の違反歴がないかなど)。
- 変更の必要性・相当性:
- 申請している活動が、変更を希望する在留資格に該当すること。
- 在留資格の変更が、我が国の出入国管理上、適当と認められること。
2. 変更後の在留資格に固有の要件
変更を希望する在留資格の種類ごとに、学歴、職務経験、収入、事業内容などの具体的な要件が定められています。例えば:
- 技術・人文知識・国際業務: 従事しようとする業務に対応する専門知識(大学卒業、特定の専門分野での実務経験など)や語学能力など。
- 経営・管理: 事業を営むための事業所の確保、事業の継続性・安定性、一定額以上の投資または従業員の雇用など。
- 高度専門職: 学歴、職務経験、年収などをポイント化し、合計点が一定以上であること。
これらの固有要件は、出入国在留管理庁のウェブサイトで詳細を確認できます。ご自身の状況が希望する在留資格の要件を満たしているか、事前にしっかりと確認することが重要です。
申請手続きの詳細
在留資格変更許可申請は、以下の手順で進めます。
1. 必要書類の準備
申請には、共通で必要な書類と、変更後の在留資格の種類によって異なる書類があります。
- 共通書類:
- 在留資格変更許可申請書(出入国在留管理庁のウェブサイトからダウンロードできます)
- パスポート
- 在留カード
- 顔写真(規定のサイズ、枚数を確認)
- 現在の在留資格に応じた書類(例:在職証明書、会社の登記事項証明書など)
- 変更後の在留資格に応じた書類:
- 例:「技術・人文知識・国際業務」への変更の場合
- 転職先や新しい所属機関に関する資料(会社の概要、登記事項証明書、損益計算書など)
- 雇用契約書または採用内定通知書
- 業務内容に関する説明書
- 学歴または職務経歴を証明する書類(卒業証明書、職務経歴書など)
- 前職の退職証明書や源泉徴収票など
- 例:「経営・管理」への変更の場合
- 事業計画書
- 会社の登記事項証明書
- 事務所の賃貸借契約書など、事業所の存在を証明する書類
- 会社の決算報告書、役員報酬を定める書類など、事業の安定性・継続性を証明する書類
- ご自身の経歴に関する書類
- 例:「日本人の配偶者等」への変更の場合
- 日本人配偶者の戸籍謄本
- 申請人(外国籍の方)と日本人配偶者の関係を証明する資料(婚姻届受理証明書、結婚証明書など)
- 質問書
- 夫婦の世帯全員の住民票の写し
- 日本人配偶者の所得を証明する書類
- 夫婦の交流がわかる資料(写真、SNSのやり取りなど)
- 例:「技術・人文知識・国際業務」への変更の場合
必要な書類は多岐にわたり、個々の状況によって追加書類の提出を求められることもあります。最新かつ正確なリストは、必ず出入国在留管理庁のウェブサイトで確認するか、管轄の出入国在留管理官署に問い合わせてください。
2. 申請先の確認
申請は、お住まいの地域を管轄する地方出入国在留管理官署(または支局、出張所)で行います。事前に受付時間や必要な手続き(予約の要否など)を確認しておくことをお勧めします。
3. 申請書類の提出
準備した必要書類一式を、管轄の出入国在留管理官署に提出します。窓口での申請が一般的ですが、オンライン申請が可能な場合もあります(詳細は出入国在留管理庁のウェブサイトをご確認ください)。
4. 申請手数料の納付
申請が許可された際に、手数料(収入印紙)を納付します。不許可の場合は手数料はかかりません。手数料の金額は、変更後の在留資格によって異なりますが、就労系資格の場合は一般的に数千円程度です。
5. 審査
提出された書類に基づき、申請内容が変更後の在留資格の要件を満たしているか、またその他の許可条件に合致しているかが出入国在留管理庁によって審査されます。審査期間は、申請内容や時期によって異なりますが、標準処理期間の目安は公表されています(概ね数週間から数ヶ月)。
6. 結果の通知
審査の結果は、通常、郵送で通知されます。許可された場合は、新しい在留カードを受け取るための手続きを行います。不許可となった場合は、その理由が通知されます。
申請上の注意点とよくある課題
在留資格変更許可申請は、申請内容によっては複雑になることがあり、いくつかの注意点があります。
- 活動内容と在留資格の整合性: 申請する変更後の在留資格で、これから行う予定の活動が正当に認められるかを慎重に判断する必要があります。曖昧な点がある場合は、事前に専門家や出入国在留管理庁に相談することが重要です。
- 書類の正確性と網羅性: 提出書類に不備や虚偽があると、審査が遅れたり、不許可になったりする原因となります。すべての書類は正確に記載し、求められている書類は漏れなく提出しましょう。特に、変更後の活動内容や所属機関に関する書類は、審査の重要な要素となります。
- 事業計画書(経営・管理への変更の場合): 事業計画書は、事業の実現可能性と安定性を示す重要な書類です。実現性の低い計画や、形式的な内容では許可を得ることは難しいでしょう。具体的な市場分析、収支計画、資金調達計画などを盛り込む必要があります。
- 不許可となるケース: 過去の法令違反(交通違反、税金・社会保険料の滞納など)、提出書類の不備や虚偽、変更後の活動内容が在留資格の要件を満たさない、経済的基盤の不安定などが不許可となる主な理由です。
- 申請中の活動: 在留資格変更許可申請中は、原則として現在の在留資格で認められている活動のみを行うことができます。許可前に変更後の活動を開始することは資格外活動となり、問題となります。ただし、「資格外活動許可」を得ていれば、現在の在留資格の範囲外で一時的な活動を行うことが可能な場合もあります。また、特定の在留資格間の変更(例:技術・人文知識・国際業務から別の技術・人文知識・国際業務へ)で一定の条件を満たす場合は、申請から2ヶ月以内であれば新しい活動を行うことが認められる場合もあります(就労資格証明書交付申請を伴う場合など)。詳細は必ず出入国在留管理庁にご確認ください。
- 専門家への相談: 申請内容が複雑な場合(特に経営・管理、高度専門職など専門性の高い資格への変更や、不許可歴がある場合など)や、書類準備に不安がある場合は、出入国在留管理業務を専門とする行政書士に相談することを強くお勧めします。行政書士は、申請書類の作成支援や提出代行を行うことができ、許可の可能性を高めるアドバイスを提供してくれます。
関連情報・参照先
在留資格変更許可申請に関する最新かつ詳細な情報は、必ず以下の公式サイトをご確認ください。
- 出入国在留管理庁: https://www.isa.go.jp/ (在留資格変更許可申請に関するページや、申請書類様式が掲載されています)
専門家への相談をご希望の場合は、お近くの行政書士会を通じて、入管業務専門の行政書士を探すことができます。
まとめ
在留資格変更許可申請は、日本でのキャリアや生活が次のステージに進む上で、非常に重要な手続きです。現在の在留資格で認められる活動の範囲を超えて活動しようとする場合は、必ず事前に手続きが必要かどうかを確認し、必要であれば適切な在留資格への変更許可申請を行いましょう。
申請にあたっては、変更後の在留資格の要件をしっかりと理解し、必要書類を正確かつ漏れなく準備することが成功の鍵となります。手続きに不安がある場合や、複雑なケースに該当する場合は、専門家である行政書士のサポートを得ることも有効な選択肢です。
この記事が、日本での在留資格変更を検討されている方々の一助となれば幸いです。