外国人向け日本生活ルールブック

日本での永住権取得後の義務と注意点:永住許可の取り消しリスク

Tags: 永住権, 在留資格, 永住者, 義務, 取消し

はじめに:永住許可は権利であり義務を伴う

日本で安定した生活基盤を築き、キャリアを重ねる外国人の方にとって、永住許可の取得は一つの大きな目標となることが多いでしょう。永住許可を取得すると、在留期間が無期限になり、活動内容に制限がなくなるなど、生活や仕事において多くのメリットが得られます。

しかし、永住許可は一度取得すれば全てが保証される「永続的な権利」と誤解されがちですが、そうではありません。永住者にも日本に滞在する上での義務があり、これらの義務を果たさなかったり、特定の法律に違反したりすると、せっかく取得した永住許可が取り消されてしまうリスクがあります。

この記事では、永住者として日本に滞在する上で知っておくべき基本的な義務や注意点、そして永住許可が取り消される可能性のあるケースについて詳しく解説します。永住者の方や、これから永住許可の取得を目指す方が、安心して日本での生活を継続できるよう、正確な知識を持つことが重要です。

永住者が守るべき基本的な義務

永住許可を取得したからといって、日本での法的な義務がなくなるわけではありません。永住者も、日本に住む全ての人が守るべき基本的な義務を履行する必要があります。主な義務としては、以下のようなものがあります。

1. 税金の納税義務

永住者を含む日本の居住者は、原則として日本国内で得た所得に対して所得税や住民税を納める義務があります。また、不動産を所有していれば固定資産税、自動車を所有していれば自動車税などの納税義務も発生します。

税金の滞納は、永住許可の維持に関わる重大な問題となる可能性があります。納税は国民の三大義務の一つ(日本国憲法第30条)であり、永住者にもこの精神が求められます。

2. 社会保険料の支払い義務

日本の公的な医療保険制度(健康保険)や年金制度(厚生年金保険、国民年金)への加入および保険料の支払いは、永住者を含む日本の居住者にとって重要な義務です。

社会保険料の滞納も、税金と同様に永住許可の維持に影響を与える可能性があります。特に国民年金保険料については、未納期間が長い場合などに問題視されることがあります。

3. 在留カードに関する義務

永住者には「在留カード」が発行されます。在留カードは、日本に中長期滞在する外国人の身分を証明する重要なカードです。永住者には、この在留カードに関する以下の義務があります。

これらの在留カードに関する義務を怠ることも、後述する永住許可の取り消しや退去強制事由に繋がる可能性があります。

永住許可が取り消される可能性のあるケース

永住許可は、出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)に基づき、特定の事由に該当した場合に取り消されることがあります(入管法第22条の4)。主な取消事由は以下の通りです。

1. 虚偽申請・報告

永住許可申請を含む、入管法に基づく各種申請や届出において、偽りその他不正の手段により許可等を受けた場合。例えば、過去の犯罪歴を隠したり、偽の収入証明を提出したりする行為などが該当します。これは最も直接的な取消事由の一つです。

2. 居住地に関する虚偽の届出や無報告

正当な理由なく、入管法第19条の7第1項(居住地の変更届出義務)の規定による届出をしない場合。引っ越しをしたのに、90日以内に出入国在留管理庁長官に住居地の届出をしなかった場合などが該当します。これは令和2年(2020年)の法改正で追加された重要な取消事由です。

3. 活動実態がない場合

永住許可は日本に生活基盤を置いて活動することを前提としています。正当な理由なく、永住者としての活動を継続して3ヶ月以上行わない場合。例えば、海外に長期滞在しており、日本での居住実態がないと判断される場合などが該当する可能性があります。ただし、一時的な海外出張や病気療養など、正当な理由があれば取消しの対象とはなりません。

4. 在留カード関係の義務違反

これらの在留カードに関する義務違反も、取消事由となる可能性があります。

5. 退去強制事由への該当

入管法には、外国人を日本から強制的に退去させる「退去強制」に関する規定があります(入管法第24条)。永住者がこれらの退去強制事由のいずれかに該当した場合、永住許可が取り消され、退去強制の対象となる可能性があります。代表的な退去強制事由には以下のようなものがあります。

これらの退去強制事由に該当することは、永住許可の取消しのみならず、日本への再入国が困難になる可能性も伴います。

長期出国時の注意点:再入国許可

永住者を含む中長期在留者が、日本を出国し、再び日本に入国しようとする場合は、原則として「再入国許可」または「みなし再入国許可」を受ける必要があります。

みなし再入国許可で出国し、1年以内に日本に戻らなかった場合、その永住許可は失効してしまいます。正当な理由により1年以内に再入国できないことが予測される場合は、出国前に期間が長い再入国許可を取得するか、有効期間内に再入国許可の有効期間延長許可申請を行う必要があります。

永住許可を維持するための対策

永住許可を維持するためには、以下の点に注意し、責任ある行動をとることが重要です。

  1. 納税・社会保険料の支払いを確実に行う: 期日までに税金や社会保険料を納めることが最も基本的かつ重要な義務です。経済的な困難等で支払いが難しい場合は、滞納する前に必ず市区町村の窓口や税務署、年金事務所等に相談してください。分割払いや猶予の制度が利用できる場合があります。
  2. 法遵守の徹底: 日本の法律、特に刑事法規や入管法を遵守することは必須です。軽微な違反であっても繰り返せば問題となる可能性もあります。
  3. 在留カードに関する義務を履行する: 住所変更、在留カードの有効期間更新、紛失時の届出などは忘れずに行ってください。これらの手続きを怠ると、過料の対象となったり、永住許可の取消しに繋がったりすることがあります。
  4. 長期出国時は再入国許可を確認する: 海外に長期滞在する予定がある場合は、必ず事前に再入国許可の有効期間や、みなし再入国許可が適用される期間を確認し、必要な手続きを行ってください。永住許可を失効させないための重要な手続きです。
  5. 居住実態を保つ: 永住許可は日本に生活基盤があることを前提としています。正当な理由なく長期にわたり日本を離れる場合は注意が必要です。
  6. 不安がある場合は専門家に相談する: 税金、社会保険、在留資格に関することなど、手続きや法解釈で不安な点がある場合は、早めに専門家(税理士、社会保険労務士、行政書士、弁護士など)に相談することをお勧めします。

まとめ

永住許可は、日本での生活をより安定させ、多くの自由をもたらす素晴らしい制度です。しかし、それは同時に、日本の一員として社会的な義務を果たす責任を伴います。税金や社会保険料の納付、在留カードに関する手続き、そして日本の法律遵守は、永住者として日本で安心して暮らし続けるための基本的な条件です。

もし、ご自身の納税状況や社会保険料の納付状況に不安がある場合、あるいは在留カードの手続きに関して不明な点がある場合は、問題を放置せず、関係機関や専門家へ速やかに相談してください。正確な情報を得て、適切な手続きを行うことが、永住許可を維持し、日本での長期的な生活を守ることに繋がります。

より詳細な情報や個別のケースに関する判断については、必ず関係省庁の公式サイト(出入国在留管理庁、国税庁、日本年金機構など)をご確認いただくか、専門家にご相談ください。