日本で働く外国籍の方が退職・転職時に知るべき健康保険・年金手続き:任意継続、国保、扶養の選択肢と注意点
はじめに
日本でキャリアを築かれている外国籍の皆様にとって、転職や退職は、さらなるステップアップの機会である一方で、様々な手続きが必要となるライフイベントです。特に、健康保険や年金といった社会保険制度に関する手続きは複雑で、適切な対応をしないと思わぬ不利益を被る可能性があります。
この情報サイトでは、日本での生活経験が数年あり、基本的な制度は理解しているものの、より専門的で実用的な情報を求めている方を対象としています。この記事では、会社を退職・転職する際に外国籍の方が知っておくべき、健康保険と年金に関する手続きの選択肢、それぞれの注意点について詳しく解説します。
日本の社会保険制度(退職・転職関連)の基本
日本の社会保険制度は、主に「健康保険」と「年金制度」で構成されています。会社員として働いている場合、通常は「健康保険組合(または協会けんぽ)」の健康保険と、「厚生年金」に加入しています。これらは事業主(会社)と従業員が保険料を折半して負担します。
会社を退職または転職する場合、このそれまで加入していた健康保険と厚生年金の資格を喪失し、新しい状況に応じた健康保険や年金制度に加入し直す手続きが必要になります。手続きを怠ると、医療費を全額自己負担することになったり、将来の年金受給額に影響が出たりする可能性があります。
退職・転職時の健康保険の手続き
会社を退職すると、原則として勤務先の健康保険の被保険者資格を喪失します。その後の選択肢は主に以下の3つです。
- 任意継続被保険者制度
- 国民健康保険への加入
- ご家族の被扶養者になる
それぞれの選択肢について詳しく見ていきましょう。
1. 任意継続被保険者制度
これは、退職後も最長2年間、それまで加入していた健康保険組合や協会けんぽの被保険者資格を継続できる制度です。
- 利用条件:
- 退職日までに継続して2ヶ月以上、その健康保険の被保険者であったこと。
- 退職日の翌日から20日以内に、加入していた健康保険組合または協会けんぽに申請すること。
- メリット:
- 退職前の健康保険を継続できるため、使用できる医療機関や保険給付の内容が変わりません。
- 被扶養者がいる場合、扶養家族も含めて継続加入できます。保険料は被保険者本人の分だけで、扶養家族が増えても保険料は変わりません。
- デメリット:
- これまで会社と折半していた保険料を全額自己負担する必要があります。ただし、退職時の標準報酬月額に基づき保険料が計算され、多くの健康保険では上限額が設けられています。
- 加入できるのは最長2年間です。
- 保険料を決められた納付期限までに納めないと、資格を喪失する場合があります。
- 手続き:
- 退職日翌日から20日以内に、加入していた健康保険組合または協会けんぽに申請書と必要書類(健康保険被保険者証など)を提出します。必要書類は健康保険の種類によって異なる場合があるため、事前に確認が必要です。
2. 国民健康保険への加入
任意継続を選択しない場合や、任意継続の条件を満たさない場合、または2年間の任意継続期間が終了した場合は、お住まいの市区町村の国民健康保険に加入するのが一般的です。
- 利用条件:
- 日本国内に住所があり、職場の健康保険や後期高齢者医療制度などに加入していない方が対象です。外国籍の方も、住民登録を行っていれば加入義務があります。
- メリット:
- 任意継続の2年間という期間制限がありません。
- デメリット:
- 保険料は前年の所得に基づいて計算されます。所得が多い場合は、任意継続より保険料が高くなることがあります。保険料は世帯単位で計算され、加入者数に応じて変動します(市区町村によって計算方法が異なります)。
- 保険料は全額自己負担です。
- 手続き:
- 退職日の翌日から14日以内に、お住まいの市区町村役場の国民健康保険担当窓口で手続きが必要です。
- 必要書類は、健康保険資格喪失証明書、本人確認書類(在留カードなど)、マイナンバー関連書類などです。扶養家族がいる場合は、その方の情報も必要です。
3. ご家族の被扶養者になる
日本にいる配偶者や親などが加入している健康保険の被扶養者になるという選択肢もあります。
- 利用条件:
- 被保険者(扶養する側)の収入により生計を維持されていること。
- 同居している場合、年間の収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、かつ被保険者の年間収入の半分未満であること。
- 別居している場合、年間の収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、かつ被保険者からの援助額より少ないこと。
- 日本国内に住所を有すること(2020年4月より、外国に居住する親族等の扶養認定要件が見直され、原則として日本国内に住所を有することが必要になりました。ただし例外もありますので、詳細は加入している健康保険にご確認ください)。
- メリット:
- 保険料の個人負担がありません(被扶養者の分の保険料は不要です)。
- デメリット:
- 厳しい収入要件を満たす必要があります。
- 手続き:
- 被扶養者になるには、扶養する側の方が加入している健康保険組合または協会けんぽに申請します。
- 必要書類は、健康保険被扶養者(異動)届、退職証明書または健康保険資格喪失証明書、収入に関する証明書類(源泉徴収票、確定申告書の控え、退職後の収入見込証明など)などです。こちらも健康保険の種類や状況によって異なるため、事前に確認が必要です。
退職・転職時の年金の手続き
会社員が加入する厚生年金は、退職により被保険者資格を喪失します。その後の状況に応じて、国民年金への加入などの手続きが必要です。
- 転職先で厚生年金に再加入
- 国民年金に加入
- 配偶者の扶養(第3号被保険者)になる
1. 転職先で厚生年金に再加入
新しい勤務先が厚生年金の適用事業所であれば、入社手続きの一環として厚生年金に加入します。会社が手続きを行いますので、ご自身で特別な手続きは不要です。厚生年金加入中は同時に国民年金の第2号被保険者となります。
2. 国民年金に加入
厚生年金に加入しない場合(自営業、無職、学生、または厚生年金非適用事業所に勤務する場合など)は、国民年金に加入する必要があります。これは国民年金の第1号被保険者となります。
- 手続き:
- 退職日の翌日から14日以内に、お住まいの市区町村役場の国民年金担当窓口で手続きが必要です。
- 必要書類は、年金手帳または基礎年金番号通知書、健康保険資格喪失証明書、本人確認書類(在留カードなど)などです。
- 注意点:
- 国民年金保険料は、原則として毎月定額を自分で納付する必要があります。
- 収入が少ない場合などは、申請により保険料の免除や納付猶予を受けられる制度があります。手続きは市区町村役場または年金事務所で行います。
3. 配偶者の扶養(第3号被保険者)になる
厚生年金または共済組合に加入している配偶者(第2号被保険者)に扶養されている場合、国民年金の第3号被保険者となることができます。
- 利用条件:
- 配偶者が第2号被保険者であること。
- 年間の収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)で、かつ被扶養者となる方の収入が配偶者の年間収入の半分未満であること。
- メリット:
- 国民年金保険料の自己負担がありません。
- 手続き:
- 扶養する側の配偶者が勤務先を通じて手続きを行います。
- 必要書類は勤務先に確認してください。
家族の社会保険への影響
ご自身が退職・転職する場合、ご家族(配偶者や子供)がご自身の健康保険の被扶養者となっている場合、そのご家族も同時に資格を喪失します。ご自身の手続きに合わせて、ご家族の健康保険や年金の手続きも必要になります。
- ご自身が任意継続する場合: ご家族も引き続き被扶養者として同じ健康保険に加入できます。特別な手続きは不要なことが多いですが、念のため健康保険組合等にご確認ください。
- ご自身が国民健康保険に加入する場合: ご家族も国民健康保険に加入します。世帯員として一緒に手続きを行います。
- ご自身がご家族の被扶養者になる場合: ご自身の健康保険資格喪失に伴い、ご家族も一時的に資格を喪失しますが、ご自身が扶養手続きをすることで再び被扶養者となります。
手続き上の注意点
- 手続き期限: 健康保険、年金ともに、資格喪失日(原則として退職日の翌日)から原則として14日以内(任意継続は20日以内)に手続きが必要です。期限を過ぎると、医療費を全額自己負担したり、年金受給に必要な加入期間が不足したりする可能性があります。
- 必要書類の準備: 健康保険資格喪失証明書や退職証明書は、会社から発行してもらう必要があります。退職前に必要書類について会社の人事担当者に確認しておきましょう。
- 空白期間: 退職日から新しい健康保険・年金への加入手続きが完了するまでの期間に医療機関にかかる場合、手続きが遅れると一時的に医療費を全額自己負担することになります。後から還付を受けることも可能ですが、早めに手続きを済ませることをお勧めします。
- 保険料: 任意継続や国民健康保険の場合、保険料は原則として全額自己負担となり、これまでよりも負担額が増える可能性があります。保険料額は状況によって異なるため、事前に確認し、納付方法についても理解しておきましょう。国民健康保険料は市区町村によって計算方法が異なります。
- 年金記録の確認: 転職を繰り返したり、国民年金への加入期間がある場合などは、ご自身の年金加入記録(「ねんきん定期便」など)を確認しておくと良いでしょう。不明な点があれば年金事務所に相談できます。
関連情報・専門家への相談
社会保険の手続きは、個々の状況(扶養家族の有無、収入、居住地、加入していた健康保険の種類など)によって最適な選択肢や必要な手続きが異なります。
- 一般的な情報:
- ご自身が加入していた健康保険組合または協会けんぽのウェブサイト
- 日本年金機構のウェブサイト (https://www.nenkin.go.jp/)
- 厚生労働省のウェブサイト (https://www.mhlw.go.jp/)
- お住まいの市区町村のウェブサイト(国民健康保険、国民年金担当部署)
- 複雑なケースや不明点がある場合:
- 年金事務所: 年金記録や国民年金制度について直接相談できます。
- 市区町村役場: 国民健康保険や国民年金の手続きについて相談できます。
- 社会保険労務士: 社会保険に関する専門家です。複雑な手続きや、ご自身の状況に合わせた最適な選択肢について具体的なアドバイスを受けることができます。
これらの機関や専門家にご自身の状況(在留資格、これまでの職歴、家族構成、収入など)を正確に伝え、具体的な手続きについて相談することをお勧めします。
まとめ
日本で退職・転職する際の健康保険と年金の手続きは、ご自身の状況に応じて複数の選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットや手続き上の注意点があります。重要なのは、退職・転職が決まったら早めに情報収集を始め、ご自身の状況に最適な選択肢を選び、期限内に必要な手続きを漏れなく行うことです。
この記事が、皆様の手続きの一助となれば幸いです。ご自身の状況に合わせた最新かつ正確な情報は、必ず関連機関の公式サイトでご確認いただくか、専門家にご相談ください。