外国人向け 日本でのM&A・組織再編に伴う雇用・在留資格の変更と注意点
日本で勤務する外国籍の皆様にとって、所属する企業のM&A(合併・買収)や組織再編は、キャリアや生活に大きな影響を与える可能性があります。特に、雇用条件の変更や在留資格に関する手続きについて、正確な情報を把握しておくことが重要です。
この記事では、日本企業または日本国内の事業におけるM&Aや組織再編が、外国籍従業員の皆様の雇用および在留資格にどのように関わってくるのか、そしてどのような手続きが必要になるのか、主な注意点と併せて解説します。
M&A・組織再編の種類と雇用契約の承継
M&Aや組織再編にはいくつかの形式があり、それぞれ雇用契約の承継に関するルールが異なります。代表的な形式は以下の通りです。
- 合併: 複数の会社が一つになること。吸収合併と新設合併があります。原則として、消滅する会社の従業員の雇用契約は存続会社または新設会社に包括的に承継されます。
- 会社分割: 会社の一部事業を別の会社に移すこと。吸収分割と新設分割があります。会社分割に伴い、事業と共にその事業に従事する従業員の雇用契約も、原則として分割計画・分割契約で定められたとおりに承継されます(労働契約承継法が適用されます)。
- 事業譲渡: 会社の一部または全部の事業を他の会社に売却すること。会社分割と異なり、雇用契約が自動的に承継されるわけではありません。譲渡会社と譲受会社との間で、個別の従業員について雇用契約を新たに締結する(または譲渡会社での契約を合意により解除し、譲受会社で再雇用する)という手続きが一般的です。
- 株式譲渡: ある会社の株式を他の会社が取得し、子会社化すること。会社の法人格はそのまま存続するため、原則として従業員の雇用契約や労働条件はそのまま維持されます。ただし、親会社の方針により、子会社の就業規則や人事制度が見直されることはあり得ます。
ポイント: 事業譲渡以外のケースでは、法律によって雇用契約が承継されることが原則ですが、手続きや詳細については、関与するM&Aの形式や個別企業の状況によって異なります。
雇用条件の変更
M&Aや組織再編の後、新しい会社の方針や統合された人事制度の下で、皆様の雇用条件(給与、労働時間、福利厚生、役職、勤務地など)が見直されることがあります。
- 労働条件の不利益変更: 労働契約法により、労働者の同意なく労働条件を不利益に変更することは原則として認められていません。ただし、就業規則の変更によって労働条件を変更できる場合があります。この場合、就業規則の変更が合理的なものであり、かつ周知されている必要があります。
- 個別同意: 事業譲渡など、雇用主が変わる場合は、新しい会社との間で個別に雇用契約を締結することになります。その際に提示される労働条件に同意するかどうかは、皆様の自由な意思によります。
- 情報収集: M&Aのプロセスの中で、新しい雇用条件について会社から十分な説明がなされるか確認し、不明な点は遠慮なく質問することが重要です。
在留資格への影響
M&Aや組織再編は、皆様の在留資格にも影響を与える可能性があります。特に「技術・人文知識・国際業務」や「高度専門職」など、特定の所属機関で特定の活動を行うことを前提とした在留資格の場合、注意が必要です。
- 所属機関に関する届出:
- 会社が吸収合併により消滅した場合。
- 会社が会社分割により新たな会社を設立し、そこへ転籍した場合。
- 事業譲渡により、雇用主である会社が変わった場合。
- 会社の名称や所在地が変わった場合。 これらの場合、原則として14日以内に出入国在留管理庁に対し、「所属機関に関する届出」または「契約機関に関する届出」(転職の場合)を行う必要があります。これは非常に重要な手続きであり、怠ると今後の在留期間更新などに影響が出る可能性があります。
- 在留資格変更許可申請が必要となる可能性:
- M&A後の新しい会社での職務内容が、現在の在留資格で許可されている活動内容と大きく異なる場合。例えば、「技術」分野のエンジニアとして在留資格を取得していた方が、新しい会社で「人文知識」や「国際業務」の分野で働くことになった場合など。
- 事業譲渡のように雇用主が変わり、実質的に転職と同じ状態になる場合。 このようなケースでは、引き続き日本で働くために、新しい職務内容や雇用主に基づいた在留資格への変更許可申請が必要になることがあります。変更申請が不許可になった場合、日本で働き続けることが難しくなる可能性があります。
- 高度専門職の場合: M&A後の新しい会社が高度専門職のポイント計算要件を満たしているか、ご自身のポイントは維持できるかを確認する必要があります。引き続き高度専門職として活動するには、改めてポイント計算を行い、場合によっては「契約機関に関する届出」や「所属機関に関する届出」を行う必要があります。転職とみなされる場合は、新たに高度専門職の在留資格認定証明書交付申請や変更許可申請が必要となることもあります。
- 永住許可申請への影響: M&Aや組織再編により勤務先が変わることは、直ちに永住許可申請の不利になるわけではありませんが、手続きを怠ったり、在留状況に問題が生じたりすると影響が出ることがあります。転職とみなされる場合は、新しい会社での勤続期間がリセットされると判断される可能性も考慮する必要があります。
具体的な手続きと注意点
- 会社からの情報提供: M&Aや組織再編について、会社から従業員に対して説明会や個別面談が行われるのが一般的です。新しい会社の方針、雇用条件、人事制度、そして皆様の今後のポジションなどについて、十分な情報提供を受けるように努めましょう。特に、外国人従業員に関わる手続き(在留資格関連)について、会社がどのようなサポートを行うのか確認することが重要です。
- 労働条件の確認: 新しい雇用契約書案や就業規則案が提示されたら、内容をよく確認してください。変更点や不明な点があれば、会社の担当部署(人事部など)に質問し、必要であれば専門家(弁護士など)に相談することも検討してください。
- 在留資格関連の手続き:
- 所属機関や契約機関に変更があった場合は、速やかに出入国在留管理庁に届出を行ってください。届出はオンラインまたは窓口で行えます。
- 職務内容が大きく変わる、または雇用主が明確に変わるなどの理由で在留資格の変更が必要と思われる場合は、ご自身の現在の在留資格の種類、新しい会社の情報、新しい職務内容などを整理し、出入国在留管理庁または専門家(行政書士など)に相談し、必要な手続き(在留資格変更許可申請など)を進めてください。申請には新しい会社の情報や雇用契約書などの書類が必要になります。
- 専門家への相談: M&A・組織再編は複雑なプロセスであり、雇用や在留資格に関する影響も個別の状況によって異なります。会社の提示する条件に疑問がある場合、在留資格に関する手続きが不明な場合、将来的な永住を視野に入れている場合などは、労働法に詳しい弁護士や入管業務に詳しい行政書士といった専門家に相談することを強くお勧めします。
まとめ
日本でのM&Aや組織再編は、外国籍従業員の皆様の雇用契約や労働条件、そして在留資格に影響を与える重要なイベントです。会社からの情報提供を注意深く確認し、ご自身の雇用条件や在留資格への影響を理解することが第一歩です。雇用主の変更や職務内容の変更があった場合は、必要に応じて出入国在留管理庁への届出や在留資格変更許可申請を速やかに行う必要があります。
不明な点や懸念がある場合は、会社の担当者とよく話し合い、また必要に応じて労働法や入管法に詳しい専門家のアドバイスを求めることをご検討ください。正確な情報を基に適切に対応することで、日本での安定したキャリアを維持することができます。
より詳細な手続きや個別のケースに関する具体的な判断については、必ず関連省庁(法務省、出入国在留管理庁、厚生労働省など)の公式ウェブサイトをご確認いただくか、専門家にご相談ください。