会社を辞める・移るとき:外国籍の方が知っておくべき税金・社会保険の手続き
日本でキャリアを築く中で、転職や退職は多くの外国人の方にとっても身近な出来事です。しかし、会社を辞める・移る際には、税金や社会保険に関していくつかの重要な手続きが必要となります。これらの手続きは、今後の日本での生活に影響を与える可能性があるため、正確に理解し、適切に対応することが大切です。
この記事では、日本で外国籍の方が会社を退職または転職する際に知っておくべき税金・社会保険に関する手続きの概要と注意点について解説します。
はじめに:なぜ手続きが必要なのか?
会社員として働いている間、税金(所得税、住民税など)や社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険など)は、原則として給与から天引きされ、会社が代わりに納付(特別徴収)してくれています。しかし、会社を退職するとこの仕組みが中断されるため、ご自身でこれらの手続きを行う必要が生じます。
また、転職先の会社でも同様の手続きが必要になりますが、前職との連携や、年をまたぐ場合の調整など、いくつか押さえておくべきポイントがあります。
会社を退職する際の手続き(転職・帰国を問わず)
会社を退職する際に必要な税金・社会保険に関する手続きは、その後の状況(すぐに転職するか、一定期間離職するか、帰国するかなど)によって異なりますが、共通して確認しておくべき事項があります。
1. 最終給与・退職金にかかる税金
退職時には、最後の給与や退職金が支払われます。これらの収入に対しても所得税や住民税がかかります。 * 所得税: 通常、最終給与からは最後の源泉徴収が行われます。退職金についても、退職所得に応じた所得税・住民税が源泉徴収されるのが一般的です。「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかどうかで計算方法が変わる場合があります。 * 住民税: 住民税は前年の所得に対して課税され、通常は6月から翌年5月にかけて毎月の給与から天引き(特別徴収)されます。退職月によっては、残りの期間の住民税が一括で徴収されるか、またはご自身で納付する(普通徴収)形に切り替わります。市区町村から送付される納付書で納めることになります。
2. 健康保険
退職すると、それまで加入していた会社の健康保険(健康保険組合または協会けんぽ)の資格を喪失します。その後の選択肢は主に以下の通りです。 * 転職先の健康保険に加入する: 新しい会社にすぐに入社する場合、その会社の健康保険に加入します。 * 国民健康保険に加入する: 会社員以外の人が加入する公的な健康保険です。市区町村の窓口で手続きを行います。無職期間がある場合や、自営業を始める場合などが該当します。 * 任意継続被保険者となる: 退職後も最大2年間、条件を満たせば、退職時の会社の健康保険を継続できる制度です。保険料は会社負担分がなくなり全額自己負担になりますが、在職中の保険料と同額程度になることが多いです。加入には退職後20日以内など期限があります。 * 家族の扶養に入る: 配偶者などが会社員で健康保険に加入しており、ご自身の収入などの条件を満たす場合、扶養家族として加入できます。
3. 年金
会社員が加入していた厚生年金保険の資格を喪失します。 * 転職先の厚生年金に加入する: 新しい会社にすぐに入社する場合、その会社の厚生年金に加入します。 * 国民年金に加入する: 日本国内に住所がある20歳以上60歳未満の全ての人が加入する年金です。退職後、厚生年金の加入者でなくなった場合は、原則として国民年金に加入する必要があります。市区町村の窓口または年金事務所で手続きを行います。 * 扶養家族となる: 配偶者が厚生年金または共済年金に加入しており、ご自身の収入が一定以下の場合、国民年金の第3号被保険者となり、保険料の納付は不要です。
4. 雇用保険
雇用保険に加入していた期間が条件を満たす場合、退職後に失業給付(基本手当)を受け取れる可能性があります。受給を希望する場合は、お住まいの地域を管轄するハローワークで手続きを行います。離職票などの書類が必要になりますので、会社から必ず受け取ってください。
転職する際の手続き
退職後すぐに別の会社に転職する場合も、いくつかの手続きが必要です。
1. 新しい会社での手続き
入社後、新しい会社で健康保険、厚生年金、雇用保険への加入手続きが行われます。また、年末調整のために必要な書類(扶養控除等申告書など)を提出します。
2. 前職の源泉徴収票の提出
新しい会社で年末調整を行う際に、前職の給与を含めた年間の所得を正確に計算するために、前職の会社から発行された「源泉徴収票」の提出を求められます。これは年末調整だけでなく、将来的な確定申告などでも必要になる重要な書類ですので、必ず受け取り、大切に保管してください。
3. 住民税の切り替え
前述の通り、退職時に住民税が一括徴収されなかった場合、普通徴収に切り替わります。転職先の会社で再び特別徴収を希望する場合は、新しい会社に相談し、手続きを進めてもらう必要があります。
年をまたいで転職した場合の確定申告
多くの場合、年末調整によって所得税の精算は完了します。しかし、年内に2か所以上の会社から給与を受け取った場合で、年末調整を受けていない給与がある方や、年をまたいで転職し、新しい会社で前職の給与を含めて年末調整が行われなかった方は、ご自身で確定申告を行う必要があります。
確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間の所得に対する税金を計算し、翌年の2月16日から3月15日までの間に税務署に申告・納付する手続きです。
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確定申告が必要なケース:
- 年をまたいで転職し、新しい会社で年末調整を受ける際に前職分の源泉徴収票を提出しなかった、または提出が間に合わなかった場合。
- 給与所得以外に一定額以上の副業による所得などがある場合。
- 住宅ローン控除を初めて受ける場合。
- 多額の医療費控除を受けたい場合。
- 複数の勤務先から給与を得ており、合計所得が一定額を超える場合。
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手続き方法:
- 税務署の窓口で相談する。
- 国税庁のウェブサイトを利用してe-Taxで申告書を作成・提出する。
- 税理士に依頼する。
知っておくべき注意点
- 手続きの期限: 健康保険の任意継続や国民年金・国民健康保険への切り替えには期限が設けられています。手続き漏れがないよう、退職前に確認しておきましょう。
- 必要書類の保管: 源泉徴収票、離職票、年金手帳、健康保険資格喪失証明書など、退職・転職に伴い発行される書類は今後の手続きで必要になるものが多くあります。必ず受け取り、紛失しないように保管してください。
- 手続きを怠った場合のリスク: 国民健康保険や国民年金への切り替えを怠ると、無保険状態になったり、将来の年金額に影響したりする可能性があります。また、税金の申告・納付を怠ると、延滞税や無申告加算税などが課される場合があります。
- 在留資格への影響: 在留資格によっては、一定期間の無職期間が在留資格の更新や変更に影響を与える可能性もゼロではありません。離職期間が長くなる場合は、必要に応じて出入国在留管理庁に確認することをお勧めします。
専門家への相談
税金や社会保険の手続きは複雑であり、個々の状況によって必要な対応が異なります。以下のような場合は、専門家への相談を検討しましょう。
- 退職金や複数の収入源がある場合の税金計算が複雑な場合 → 税理士
- 社会保険の切り替えや失業給付の手続きに不明な点が多い場合 → 社会保険労務士
- 退職・転職が在留資格に与える影響や、複雑な在留資格関連の手続きも同時に検討したい場合 → 行政書士
専門家は有料のサービスを提供していますが、正確な手続きを行い、将来的なトラブルを防ぐために有効な選択肢となります。
関連情報への参照
正確な情報や最新の様式、手続きの詳細については、必ず以下の公的機関の公式サイトをご確認ください。
- 税金関連: 国税庁 (https://www.nta.go.jp/)、お住まいの市区町村のウェブサイト
- 健康保険・年金関連: 日本年金機構 (https://www.nenkin.go.jp/)、ご加入の健康保険組合、お住まいの市区町村のウェブサイト
- 雇用保険関連: 厚生労働省 (https://www.mhlw.go.jp/)、ハローワーク (https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/list/shinjuku.html - 例:東京ハローワークのリストページへのリンク形式)
- 在留資格関連: 出入国在留管理庁 (https://www.moj.go.jp/isa/)
まとめ
日本で会社を退職または転職する際には、税金と社会保険に関する適切な手続きが不可欠です。ご自身の状況に合わせて、必要な手続きを把握し、期限内に対応することが重要です。不明な点があれば、会社の担当部署や関係機関に遠慮なく問い合わせるか、専門家への相談も検討しましょう。正確な手続きを通じて、日本での生活基盤をより強固なものにしてください。