日本で働く外国籍の方が知っておくべき 労働契約の種類、解雇、労働条件変更のルール
日本で数年働き、キャリアアップや安定した生活基盤の構築を目指す外国籍の皆様にとって、雇用契約に関する正しい知識を持つことは非常に重要です。日本の労働法規は、労働者の権利と義務を定めており、雇用契約は使用者(会社)と労働者間の基本的なルールを明確にするものです。
特に、転職、昇進、異動、あるいは会社の経営状況の変化などに際して、ご自身の労働契約がどのように保護され、また変更され得るのかを知っておくことは、予期せぬトラブルを防ぎ、安心して働き続けるために不可欠です。
この記事では、日本における主な雇用契約の種類、契約期間に関するルール、労働条件の変更手続き、そして万が一の解雇に関する日本の法的な考え方について、外国籍の方が理解しやすいように解説します。
1. 日本における主な雇用契約の種類
日本で働く際に締結する雇用契約には、いくつかの種類があります。それぞれの特徴を理解することが、ご自身の権利とキャリアパスを考える上で重要です。
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期間の定めのない労働契約(正社員など)
- 一般的に「正社員」と呼ばれる雇用形態です。労働契約の期間が具体的に定められていません。
- 日本の労働法では、期間の定めのない労働契約を結んだ労働者は、原則として労働者の意思に反して一方的に解雇されることが厳しく制限されています(後述の「解雇に関するルール」参照)。
- 安定した雇用が見込める反面、職務内容や勤務地などが包括的に定められていることが多く、会社の指示による異動や職務変更を受け入れるのが一般的です。
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期間の定めのある労働契約(契約社員、嘱託社員など)
- あらかじめ雇用期間が定められている契約です。例えば、「契約期間は〇年〇月〇日から〇年〇月〇日までとする」といった形で明確に期間が記載されます。
- 「契約社員」「嘱託社員」「パートタイマー」「アルバイト」など、様々な呼称がありますが、法的な性質は期間の定めがある労働契約です。
- 契約期間が満了すれば雇用関係は終了するのが原則ですが、繰り返し更新されて通算5年を超えると、労働者の申し込みにより期間の定めのない労働契約に転換できる「無期転換ルール」があります(労働契約法第18条)。
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派遣労働
- 労働者は派遣会社(派遣元)と雇用契約を結びますが、実際に働くのは別の会社(派遣先)です。
- 業務に関する指揮命令は派遣先から受けますが、給与支払いや社会保険の手続きなどは派遣元が行います。
- 派遣期間には法的な上限が定められています(原則として同一の組織単位で3年)。
ご自身の雇用契約がどの種類に当たるか、契約書をよく確認することが第一歩です。特に契約期間の有無と、それに伴う更新の可能性や条件は重要な確認事項です。
2. 契約期間の定めがある労働契約に関するルール
期間の定めのある労働契約は、契約期間満了とともに終了するのが原則ですが、いくつかの重要なルールがあります。
(1) 雇止め法理
期間の定めのある労働契約でも、単に期間が満了したという理由だけで雇用を打ち切ることが、無制限に認められているわけではありません。特に、契約が繰り返し更新されており、実質的に期間の定めのない労働契約と変わらない状態にある場合や、労働者が期間満了後も更新されると期待することに合理的な理由がある場合には、会社が更新を拒否すること(雇止め)が法的に制限されることがあります。
これは「雇止め法理」と呼ばれ、最高裁判例を通じて確立され、現在は労働契約法第19条に明記されています。一定の要件を満たす雇止めは、解雇と同様に客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効となります。
(2) 無期転換ルール
平成25年4月1日に施行された改正労働契約法により、期間の定めのある労働契約が繰り返し更新されて、通算契約期間が5年を超える場合、労働者からの申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールが定められました(労働契約法第18条)。
- この権利は、通算契約期間が5年を超えた日以降に到来する最初の契約期間の末日から5年間行使できます。
- 無期転換後の労働条件(職務、勤務地、賃金など)は、原則として従前の有期労働契約と同一となりますが、就業規則等に別段の定めがある場合はそれに従います。
ご自身の契約更新回数や通算契約期間を確認し、無期転換の権利が発生しているか把握しておくことは、キャリアの安定性を高める上で有効です。
3. 労働条件の変更に関するルール
雇用契約書や就業規則に定められた労働条件(賃金、労働時間、勤務場所、業務内容など)は、原則として使用者と労働者の合意がなければ変更できません(労働契約法第3条第1項、第8条)。
(1) 労働者の合意による変更
労働条件は、使用者と労働者が個別に合意することによって変更できます。例えば、昇給や役職の変更に伴う労働条件の変更は、通常、労働者の同意を得て行われます。
(2) 就業規則による変更
会社は就業規則を作成し、労働者の労働条件を定めることができます。就業規則は、その内容を労働者に周知させている場合、労働契約の内容となります(労働契約法第7条)。
ただし、会社が一方的に就業規則を変更して労働条件を変更する場合、原則として労働者の同意が必要です。労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的なものである場合に限り、就業規則による一方的な不利益変更が例外的に認められます(労働契約法第10条)。賃金の引き下げなど、労働者にとって不利益となる変更は、合理性が厳しく判断されます。
(3) 配置転換・異動
職務内容や勤務地を限定せずに雇用契約を結んでいる場合、会社には業務上の必要に応じた配置転換や異動を命じる権利(業務命令権)があります。この命令は、権利の濫用と認められる場合(例:業務上の必要性が全くない、不当な動機・目的によるもの、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるもの)を除き、原則として従わなければなりません。
労働条件の変更に関して疑問や不利益な変更の提案があった場合は、安易に同意せず、その内容を十分に確認し、必要に応じて会社と話し合うことが重要です。
4. 解雇に関するルール
日本の労働法では、労働者の解雇は非常に厳しく制限されています。これは、労働者が安定して働き続けられるようにするための重要なルールです。
(1) 解雇権濫用法理
使用者は、労働者を解雇する場合、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法第16条)。これを「解雇権濫用法理」といいます。
「客観的に合理的な理由」や「社会通念上の相当性」は、個別の事案ごとに、労働者の能力不足、勤務態度、規律違反、会社の経営状況などを総合的に考慮して判断されます。安易な理由での解雇は認められません。
(2) 解雇の種類
- 普通解雇: 労働者の能力不足や規律違反など、労働契約を継続することが困難となった場合に行われる解雇です。
- 懲戒解雇: 労働者の重大な規律違反行為(例:業務上横領、経歴詐称、度重なる無断欠勤など)に対する懲罰としての解雇です。就業規則に懲戒事由とその種類が明記されている必要があります。
- 整理解雇: 会社の経営悪化など、使用者側の事情により人員を削減するために行われる解雇です。この場合、以下の4つの要素(整理解雇の四要素)が考慮されます。
- 人員削減の必要性
- 解雇を避けるための努力義務(希望退職者の募集など)
- 人選の合理性・公平性
- 労働者との事前の協議・説明義務
(3) 解雇予告と解雇予告手当
使用者が労働者を解雇する場合、原則として少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。30日前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。予告期間は、予告した日から解雇日までの期間で計算します。
ただし、労働者の責に帰すべき事由(例:重大な規律違反、犯罪行為)や、天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合で、行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受けた場合は、解雇予告や解雇予告手当が不要となる例外があります。
(4) 不当解雇と感じた場合
もしご自身が解雇された場合、その理由や手続きに納得がいかない、不当だと感じる場合は、泣き寝入りする必要はありません。日本の労働法に基づき、解雇の有効性を争うことが可能です。
5. 労働契約に関するトラブル発生時の相談先
労働契約や労働条件に関して疑問やトラブルが生じた場合、一人で悩まずに適切な機関に相談することが重要です。
- 社内相談窓口: 多くの会社には、ハラスメント相談窓口や人事部門など、従業員からの相談を受け付ける部署があります。まずは会社の窓口に相談してみるのも一つの方法です。
- 労働組合: 会社の労働組合に加入している場合、組合に相談することができます。労働組合は、労働者の代表として会社と交渉する権利を持っています。
- 労働基準監督署: 労働基準法などの法令に違反する状況(例:残業代の未払い、不当な解雇予告なしの解雇)があると思われる場合は、労働基準監督署に相談することができます。労働基準監督署は、法令違反の是正指導などを行います。
- 厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署所在地一覧:https://jsite.mhlw.go.jp/roudoukyoku/list.html (日本のウェブサイトへのリンク例)
- 弁護士: 個別具体的な労働契約上のトラブル(解雇の有効性、未払い賃金の請求、ハラスメントによる損害賠償など)について、法的なアドバイスや交渉・訴訟の代理を依頼したい場合は、弁護士に相談するのが最も適しています。労働問題に詳しい弁護士を選ぶと良いでしょう。
- 日本弁護士連合会:https://www.nichibenren.or.jp/ (日本のウェブサイトへのリンク例)
- 都道府県労働委員会: 会社との間で、労働条件等に関する紛争について、あっせん、調停、仲裁といった手続きを利用して解決を図ることができます。
- 中央労働委員会 都道府県労働委員会:https://www.clc.mhlw.go.jp/churoi/komono/ze_tihou.html (日本のウェブサイトへのリンク例)
ご自身の状況に応じて、適切な相談先を選び、必要な情報を収集・整理して相談に臨むことが重要です。
まとめ
日本で働く外国籍の方が、労働契約の種類、契約期間のルール、労働条件の変更、解雇に関する基本的なルールを理解しておくことは、安定したキャリアを築き、予期せぬトラブルから身を守る上で非常に役立ちます。
ご自身の雇用契約書や就業規則をよく確認し、分からない点は会社の担当者や信頼できる同僚に尋ねる習慣をつけましょう。もし疑問や問題が発生した場合は、本記事で紹介した公的機関や専門家への相談を検討してください。
これらの知識を活かし、日本でのキャリアをさらに発展させていくことを願っています。