日本で家族滞在ビザを持つ方が自身の就労ビザを取得するには?:手続き、条件、注意点
はじめに
日本に在留する外国籍の方の中には、配偶者や親の「家族滞在」ビザで生活されている方も多くいらっしゃいます。家族滞在の在留資格では、原則として就労活動は認められていませんが、「資格外活動許可」を取得することで、一定の範囲内でパートタイムなどの就労が可能となります。
しかし、自身の専門性やキャリアを生かして、日本の企業でフルタイムの正社員などとして働きたいと考える方もいらっしゃるかと思います。このような場合、家族滞在の在留資格から、自身の名義で「技術・人文知識・国際業務」などの就労可能な在留資格へ変更する必要があります。
本記事では、日本で家族滞在ビザを持つ方が、自身のキャリアのために就労可能な在留資格(以下、就労ビザ)へ変更するための手続き、満たすべき条件、必要となる書類、そして申請上の注意点について、網羅的に解説いたします。
なぜ家族滞在ビザではフルタイム就労が難しいのか
家族滞在の在留資格は、日本に滞在する扶養者(配偶者や親)の扶養を受けて生活するためのものです。そのため、原則として収入を伴う事業活動や報酬を受ける活動は認められていません。
「資格外活動許可」を取得すれば週28時間以内の就労が可能となりますが、これはあくまで「資格外」の活動であり、本業としてフルタイムで働くことを想定した制度ではありません。日本の多くの企業で正社員として雇用されるためには、その職務内容に適した就労ビザ(例:技術・人文知識・国際業務、特定活動など)を自身の名義で取得することが求められます。
したがって、家族滞在ビザの方が日本の企業で自身の専門性を生かしてフルタイムで働きたいと考える場合は、家族滞在から自身の名義の就労ビザへ在留資格を変更する手続きを行う必要があります。
変更可能な就労ビザの種類
家族滞在から変更する就労ビザの種類は、ご自身の学歴、職歴、そして日本で従事しようとする仕事の内容によって決まります。一般的なケースとしては、以下の在留資格が挙げられます。
- 技術・人文知識・国際業務: 大学等で学んだ理工学、人文科学、社会科学の知識を要する業務や、外国文化に基盤を有する思考・感受性を必要とする業務に従事する場合に該当します。多くのホワイトカラーの専門職がこの区分に含まれます。
- 特定活動: 法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動を行う場合の在留資格です。例えば、高度な専門能力を持つ方が研究や事業を行う場合などに利用されることがあります。(例:高度専門職)
- その他の就労ビザ: 特定の専門分野(例:芸術、宗教、報道、法律・会計業務、医療など)や産業分野(例:技能、特定技能など)の仕事に従事する場合に、それぞれの仕事内容に合わせた在留資格が存在します。
どの在留資格が適切であるかは、従事する業務内容とご自身の経歴を照らし合わせて判断する必要があります。
在留資格変更許可申請の基本的な流れ
家族滞在から就労ビザへの変更は、「在留資格変更許可申請」として行います。
- 転職先の決定: まず、就労予定の企業と雇用契約を締結します。この際、契約内容(職務内容、給与、雇用期間など)が希望する就労ビザの要件を満たしているか確認することが重要です。
- 必要書類の準備: 申請に必要な書類を、ご自身、扶養者、そして雇用予定の企業で協力して準備します。
- 申請: 準備した書類を、お住まいの地域を管轄する地方出入国在留管理官署に提出します。申請は原則として本人が出頭して行いますが、弁護士や行政書士などの専門家が代理申請することも可能です。
- 審査: 出入国在留管理官署で提出書類に基づき審査が行われます。職務内容の妥当性、本人の適格性、雇用企業の安定性・継続性などが審査のポイントとなります。
- 許可または不許可の通知: 審査の結果、許可されれば新しい在留カードが交付されます。不許可となった場合は、その理由が通知されます。
審査期間は、申請内容や時期によって変動しますが、通常は数週間から数ヶ月程度かかります。
在留資格変更許可申請の主な条件・要件
家族滞在から就労ビザへの変更許可を得るためには、主に以下の条件を満たす必要があります。
1. 申請人本人の要件
変更を希望する就労ビザの種類ごとに定められた学歴や職歴の要件を満たしている必要があります。例えば、「技術・人文知識・国際業務」の場合、従事する業務に関連する分野を大学等で専攻して卒業しているか、または関連する業務について一定期間の実務経験を有することが求められます。
2. 従事する業務の内容に関する要件
雇用契約において定められた職務内容が、申請する就労ビザで認められている活動に該当する必要があります。また、業務内容が申請人の学歴や職歴と関連しているかどうかも重要な審査ポイントとなります。
3. 雇用条件に関する要件
雇用契約における給与額が、日本人が同等の業務に従事する場合と同等額以上であることが原則です。また、雇用条件が労働基準法などの日本の労働関連法令に適合している必要があります。
4. 雇用する企業の安定性・継続性に関する要件
申請人を雇用する企業が、継続的に事業を運営し、雇用契約に基づく給与を支払う能力があるかどうかが審査されます。企業の規模、業績、経営状況などが判断材料となります。
5. その他の要件
- 在留状況に関する要件: 日本に滞在中、法律を遵守し、適正な在留状況である必要があります。過去の違反歴(不法就労、交通違反、納税義務不履行など)は審査に影響を与える可能性があります。
- 扶養者の状況: 家族滞在ビザは扶養者の活動に依存するため、扶養者が引き続き日本に適法に在留していることが前提となります。
- 納税・社会保険加入状況: 申請人本人および扶養者の納税義務履行状況や、社会保険への加入状況も確認されることがあります。
これらの要件は就労ビザの種類や個別の状況によって異なります。
必要書類
在留資格変更許可申請には、様々な書類が必要です。主なものを以下に挙げますが、個別の状況や申請する在留資格によって追加書類が求められることがあります。
申請人ご自身で準備する書類:
- 在留資格変更許可申請書(法務省のウェブサイトからダウンロード可能)
- 写真(規定のサイズ、枚数)
- パスポート
- 在留カード
- 住民票の写し
- 大学等の卒業証明書、成績証明書(原本)
- 職務経歴を証明する書類(在職証明書、退職証明書など)
- その他、就労ビザの種類に応じた資格や経験を証明する書類
扶養者に関連する書類:
- 扶養者の在留カード、パスポート
- 扶養者との関係を証明する書類(戸籍謄本など)
- 扶養者の所得証明書、住民税の納税証明書、課税証明書など、扶養能力を証明する書類(直近のもの)
雇用予定の企業に準備してもらう書類:
- 雇用契約書の写しまたは採用通知書
- 企業の概要がわかる書類(登記事項証明書、会社案内など)
- 直近の決算報告書
- 源泉徴収票、法人税の納税証明書など、企業の安定性・継続性を証明する書類
- 申請人の職務内容、雇用条件を説明する書類
- その他、就労ビザの種類に応じて求められる書類
これらの書類の準備は多岐にわたるため、早期に着手することをお勧めします。
申請上の注意点
- 申請時期: 在留期限に余裕をもって申請することが重要です。申請が許可されるまでの間、在留期間が経過しても、原則として結果が出るまで引き続き日本に滞在できます(特例期間)。
- 審査中の活動: 在留資格変更許可申請中は、原則として現在の在留資格で認められている活動範囲内で生活する必要があります。資格外活動許可を持っている場合は、その範囲内でのみ就労が可能です。新たな就労ビザでの活動は、許可が下りてから開始できます。
- 不許可のリスク: 提出書類の不備、申請内容と実態の相違、要件不適合など様々な理由で申請が不許可となる可能性もゼロではありません。不許可の場合、再度申請することも可能ですが、難しい判断が伴うこともあります。
- 専門家への相談: 在留資格変更申請は、提出書類が多く、要件の判断も複雑な場合があります。特に、ご自身の学歴や職歴が職務内容に直接関連しない場合、雇用企業の安定性に懸念がある場合、過去に法的な問題を起こしたことがある場合などは、専門的な知識を持つ行政書士や弁護士に相談することを強くお勧めします。専門家は、申請書類の作成支援、必要書類のアドバイス、出入国在留管理官署とのやり取りなどを代行・サポートしてくれます。
まとめ
家族滞在ビザから自身の名義で就労ビザを取得することは、日本でのキャリアを本格的に築きたい方にとって重要なステップです。そのためには、希望する就労ビザの要件を正確に理解し、ご自身の学歴・職歴や雇用契約の内容が要件を満たしているか確認する必要があります。
申請には多くの書類が必要となり、手続きには時間と労力がかかります。早めに情報収集を行い、計画的に準備を進めることが成功の鍵となります。不明な点や複雑な状況の場合は、一人で抱え込まず、専門家である行政書士や弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることを検討してください。
本記事が、家族滞在ビザをお持ちの方が、日本で自身のキャリアを切り開くための一助となれば幸いです。最新の情報や詳細な手続きについては、必ず法務省出入国在留管理庁の公式ウェブサイトをご確認いただくか、専門家にご相談ください。