外国籍の方が知るべき 確定申告:副業・投資・不動産収入がある場合の申告方法と注意点
はじめに
日本で数年間生活し、キャリアを積んでいく中で、給与所得以外に収入を得る機会が増える方もいらっしゃるかと思います。例えば、副業でコンサルティングを行ったり、株式投資や不動産投資から収益を得たりする場合です。これらの収入がある場合、多くの場合、ご自身で税務署に「確定申告」を行い、所得税を納める必要があります。
確定申告は、日本の税制度において非常に重要な手続きです。正しく申告を行わないと、追加で税金を納めることになったり、延滞税や加算税といったペナルティが課されたりする可能性があります。特に、複数の種類の所得がある場合や、初めて確定申告を行う方にとっては、手続きが複雑に感じられるかもしれません。
この記事では、日本に住む外国籍の方で、給与所得以外に様々な収入がある方を対象に、確定申告の基本的な仕組み、申告が必要となるケース、所得の種類ごとの申告方法、必要書類、手続きの流れ、そして外国籍の方特有の注意点について詳しく解説します。正確な知識を身につけ、計画的に確定申告を行いましょう。
日本の税制度と確定申告の基本
所得税の仕組み
日本の所得税は、1月1日から12月31日までの1年間に得た所得に対して課される税金です。所得は種類ごとに区分され、それぞれ計算方法が異なります。主な所得の種類には、給与所得、事業所得、不動産所得、利子所得、配当所得、譲渡所得、一時所得、雑所得などがあります。
多くの会社員の方は、毎月の給与から所得税が天引きされる「源泉徴収」が行われ、年末に「年末調整」で税額が確定するため、ご自身で確定申告を行う必要はありません。しかし、後述する一定の条件に該当する場合は、年末調整済みであっても確定申告が必要となります。
確定申告の目的
確定申告は、1年間の全ての所得と、それに対する所得税額を計算し、税務署に申告・納税する手続きです。これにより、源泉徴収された税額との差額を精算します。税金を多く納めすぎている場合は還付を受け、不足している場合は追加で納めます。
確定申告が必要なケース
給与所得がある方でも、以下のような場合には原則として確定申告が必要です。
- 給与の年間収入金額が2,000万円を超える場合。
- 給与所得・退職所得以外の所得の合計額が20万円を超える場合。
- ここでいう「所得」は、収入から必要経費を差し引いた金額です。例えば、副業の売上が50万円あっても、必要経費が35万円かかっていれば所得は15万円となり、この条件だけでは確定申告は不要です。
- 2カ所以上から給与を受け取っている場合で、年末調整をされなかった方の給与の収入金額と、給与所得・退職所得以外の所得との合計額が20万円を超える場合。
- 同族会社の役員やその親族などで、その同族会社から給与の他に貸付金の利子、店舗・工場の賃貸料、著作権の使用料などを受け取っている場合。
- 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている場合。
- 外国企業から受け取った給与で、源泉徴収されていないものがある場合。
上記以外にも確定申告が必要となる場合がありますので、ご自身の状況に合わせて確認が必要です。
所得の種類別の申告方法
給与所得以外の主な所得について、計算方法と申告時の注意点を見ていきましょう。
副業所得(事業所得または雑所得)
副業で得た収入は、多くの場合「事業所得」か「雑所得」に区分されます。明確な区分基準はありますが、一般的に、独立・継続・反復して行われ、社会的な地位を有すると認められるような活動から生じる所得は事業所得に、それ以外の所得(講演料、原稿料、アフィリエイト収入など)は雑所得になることが多いです。
- 計算方法: 収入金額 - 必要経費 = 所得金額
- 必要経費: 収入を得るために直接かかった費用です。例えば、通信費、書籍代、交通費、打ち合わせ費用、備品購入費などが含まれる場合があります。事業所得として申告する場合は、青色申告を選択することで、より多くの節税メリット(青色申告特別控除など)を受けられる可能性がありますが、事前の承認申請や複式簿記による記帳が必要です。雑所得の場合、通常は簡易な収支内訳書の作成で済みます。
- 申告時の注意点: 収入と経費を正確に記録しておくことが重要です。領収書や請求書は必ず保管しておきましょう。
不動産所得
アパートやマンション、土地などの不動産を貸し付けることで得られる収入は「不動産所得」になります。
- 計算方法: 収入金額(家賃収入、礼金、更新料など) - 必要経費 = 不動産所得の金額
- 必要経費: 固定資産税、都市計画税、損害保険料、減価償却費、修繕費、管理委託費、借入金の利子などが含まれます。減価償却費は、建物などの固定資産を取得価額から毎年一定額を必要経費として計上するものです。
- 申告時の注意点: 必要経費の計算、特に減価償却費の計算方法や、借入金利子のうち経費に算入できる範囲について確認が必要です。
株式や投資信託などの譲渡所得・配当所得
株式や投資信託を売却して得た利益(譲渡所得)や、保有することで受け取る配当金(配当所得)は、原則として申告分離課税の対象となります。
- 特定口座(源泉徴収あり): 証券会社が税金の計算と納税を代行してくれるため、原則として確定申告は不要です。複数の特定口座(源泉徴収あり)がある場合でも、確定申告をしない選択が可能です。
- 特定口座(源泉徴収なし): 証券会社は年間取引報告書を作成しますが、税金の計算と納税はご自身で行う必要があります。原則として確定申告が必要です。
- 一般口座・NISA口座: 一般口座で取引した場合は、原則として確定申告が必要です。NISA口座内での利益は非課税のため、確定申告は不要です。
- 申告時の注意点: 特定口座(源泉徴収あり)以外で取引がある場合は、年間取引報告書などをもとにご自身で申告書を作成します。譲渡損失が出た場合、一定の条件のもと、他の譲渡所得との損益通算や、翌年以降3年間の繰越控除ができる場合があります。
その他の所得(雑所得など)
上記以外にも、講演料、印税、公的年金等、暗号資産の取引による所得などは「雑所得」に該当することが多いです。
- 計算方法: 収入金額 - 必要経費 = 所得金額
- 必要経費: 各収入を得るために直接かかった費用です。
- 申告時の注意点: 暗号資産取引による所得は、売却益や他の暗号資産との交換、商品の購入などに使用した場合に発生し、原則として総合課税の雑所得として確定申告が必要です。計算方法が複雑になることがあるため注意が必要です。
必要書類
確定申告には様々な書類が必要です。主なものを以下に挙げますが、所得の種類や状況によって異なります。
- マイナンバーカードまたは通知カードと本人確認書類
- 源泉徴収票(給与所得がある場合)
- 支払調書(報酬や原稿料などを受け取った場合)
- 公的年金等の源泉徴収票(年金収入がある場合)
- 生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書
- 国民年金保険料控除証明書
- 医療費の領収書や明細書(医療費控除を受ける場合)
- 寄附金の受領証明書(寄附金控除を受ける場合)
- 住宅借入金等特別控除に関する書類(要件を満たす場合)
- 副業や不動産収入に関する帳簿、領収書、請求書、支払明細など
- 株式等の特定口座年間取引報告書、支払通知書など
- 国民健康保険料や介護保険料の納付済額通知書
確定申告の手続き
確定申告は、原則として毎年2月16日から3月15日までの間に行います。(年によって前後する場合があります。また、還付申告のみの場合は1月から行うことができます。)
- 必要書類の準備: 上記リストなどを参考に、必要な書類を漏れなく集めます。
- 所得金額・税額の計算: 1年間の収入と経費を集計し、所得の種類ごとに所得金額を計算します。次に、各種所得金額を合計し、所得控除(医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除など)を差し引いて課税所得金額を計算します。最後に、課税所得金額に税率をかけて所得税額を計算し、税額控除(住宅借入金等特別控除など)を差し引いて最終的な税額を確定します。
- 確定申告書の作成: 税務署のウェブサイト(国税庁)にある確定申告書等作成コーナーを利用するのが便利です。画面の案内に従って入力すれば、税額が自動計算されます。会計ソフトなども活用できます。
- 申告書の提出: 作成した申告書は、e-Tax(電子申告)、税務署への持参、または郵送で提出できます。e-Taxは自宅から申告でき、添付書類の提出を省略できる場合があるなどメリットが多いです。
- 納税: 確定申告で税金が不足している場合は、指定された期限(原則として申告期限と同じ)までに納付します。納税方法には、e-Taxによる振替納税、ダイレクト納付、クレジットカード納付、コンビニ納付などがあります。
外国籍の方特有の注意点
- 納税地: 日本に住所を有する方の場合、納税地は原則として住所地となります。税務署の管轄は住所によって決まりますので、ご自身の住所を管轄する税務署を確認しましょう。
- 税務署とのコミュニケーション: 確定申告書や税務署からの通知は日本語です。必要に応じて、日本の税務制度に詳しい友人や知人、または後述の専門家(税理士)に相談することも検討してください。国税庁のウェブサイトには、一部の情報を英語で提供しているページもあります。
- 専門家(税理士)への相談: 複数の種類の所得がある場合や、計算が複雑な場合、あるいは税務調査への対応など、ご自身での対応が難しい場合は、税理士に相談することをお勧めします。税理士は税務の専門家であり、正確な申告書の作成や節税に関するアドバイスを受けることができます。
よくある疑問・落とし穴
- 経費の範囲: どこまでが必要経費として認められるか判断に迷うことがあります。収入に直接関連する費用であることが原則ですが、税務署の判断基準はケースバイケースです。不安な場合は税理士に相談しましょう。
- 税務調査: 確定申告の内容について税務署から問い合わせがあったり、調査が行われたりする場合があります。日頃から収入や経費に関する書類を整理し、正確に記録しておくことが重要です。
- 無申告加算税・延滞税: 確定申告を期限内に行わなかったり、納付が遅れたりすると、本来納める税金に加えてペナルティが課されます。必ず期限内に手続きを行いましょう。
まとめ
日本で給与所得以外に副業、投資、不動産など複数の収入がある外国籍の方は、ご自身で確定申告を行う義務が生じることがあります。所得の種類ごとの計算方法や必要書類を理解し、正確な申告を心がけましょう。
確定申告の手続きは複雑に感じるかもしれませんが、国税庁のウェブサイトの活用や、日々の帳簿付けを行うことで、スムーズに進めることができます。もし手続きに不安がある場合や、税務に関する判断に迷う場合は、迷わず税理士のような専門家にご相談ください。正確な確定申告は、日本での生活基盤を安定させるためにも非常に重要です。
関連情報・専門家への相談
- 国税庁ウェブサイト: 確定申告に関する最新情報、申告書作成コーナー、税務用語の説明などが掲載されています。 https://www.nta.go.jp/ (日本語) https://www.nta.go.jp/english/index.htm (英語)
- 税理士に相談する: 日本税理士会連合会などのウェブサイトで、お近くの税理士を探すことができます。外国語対応可能な税理士を探すことも可能です。
確定申告は個々の状況によって大きく異なります。ご自身の状況を正確に把握し、不明な点は専門家にご確認いただくことを強くお勧めします。