【外国人向け】日本での扶養控除・配偶者控除:要件、手続き、節税メリットを理解する
はじめに:扶養控除・配偶者控除とは
日本で働く外国籍の皆様にとって、税金に関する知識は非常に重要です。所得税や住民税は収入に応じて課税されますが、特定の条件を満たすことで税負担を軽減できる制度があります。その代表的なものが「扶養控除」と「配偶者控除(または配偶者特別控除)」です。
これらの控除を正しく理解し、適用することで、年間を通じて支払う税金の額を合法的に減らすことが可能です。特に、日本国外に家族がいる場合など、外国籍の方特有の注意点も存在します。
この記事では、扶養控除と配偶者控除(配偶者特別控除を含む)の基本的な仕組み、適用されるための要件、具体的な手続き方法、そして適用による節税メリットについて、分かりやすく解説します。ご自身の状況に合わせて、これらの制度を最大限に活用するための一助となれば幸いです。
扶養控除の詳細
扶養控除とは、納税者に所得税法上の控除対象扶養親族がいる場合に受けられる所得控除です。納税者の税負担を軽減するための制度です。
扶養控除の要件
扶養控除の対象となる「控除対象扶養親族」とは、その年の12月31日時点で以下の全ての要件を満たす方を指します。
- 配偶者以外の親族:納税者の配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)であること。または、都道府県知事から養育を委託された児童(里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。
- 生計を一にしている:納税者と「生計を一にしている」こと。これは、必ずしも同居している必要はありません。例えば、単身赴任の場合や、修学・療養等の都合で別居している場合でも、生活費や学資金、療養費などを送金しているなど、常に生活費等を送金している場合は「生計を一にしている」とみなされます。日本国外に居住する親族の場合、この「送金」が重要な要件となります。
- 合計所得金額:その年の合計所得金額が48万円以下であること。(給与のみの場合は、給与収入が103万円以下に相当します。)
- 青色申告者等の事業専従者でない:青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、又は白色申告者の事業専従者でないこと。
- 年齢:その年の12月31日現在の年齢が16歳以上であること。15歳以下の親族は児童手当の対象となるため、扶養控除の対象からは外れますが、住民税に関する扶養親族としてはカウントされる場合があります。
税法上の扶養と健康保険・年金上の扶養の違い
ここで注意が必要なのは、所得税法上の扶養と、健康保険や年金といった社会保険上の扶養は、異なる基準で判断される点です。
- 税法上の扶養:前年の合計所得金額(原則)や、その年の12月31日時点の状況(年齢など)を基準とします。年間を通じた所得の見込みではなく、確定した所得が基準となることが多いです。(年の途中の手続きでは見込み額で判断する場合もあります)
- 社会保険上の扶養:向こう1年間の収入の見込みが一定額(原則130万円未満、60歳以上または障害者の場合は180万円未満)であることや、被保険者(扶養する側)との関係性、生計維持関係などが基準となります。
したがって、税法上の扶養親族であっても、社会保険上の扶養に入れない場合や、その逆の場合もあります。それぞれの制度の要件を個別に確認することが重要です。
国外居住親族を扶養にする場合の要件・必要書類
日本国外に居住する親族を扶養控除の対象とする場合、上記の要件に加えて、以下の書類を年末調整または確定申告の際に提出または提示する必要があります。
- 親族関係書類:国外居住親族が納税者の親族であることを証明する書類。
- 戸籍謄本、出生証明書、婚姻証明書など
- 現地の公的機関が発行した書類で、国外居住親族の氏名、生年月日、住所または居所が記載されたもの(パスポートのコピーなど)
- これらの書類が外国語で記載されている場合は、日本語での翻訳文が必要です。
- 送金関係書類:納税者が国外居住親族の生活費や教育費に充てるための支払いを各年に38万円以上行ったことを証明する書類。
- 金融機関の書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引により納税者から国外居住親族へ支払をしたことを明らかにするもの(送金証明書など)
- クレジットカード発行会社の書類又はその写しで、国外居住親族がそのクレジットカードを利用したこと、及びその利用代金につき納税者からそのクレジットカード発行会社へ支払をしたことを明らかにするもの(クレジットカードの利用明細など)
- これらの書類が外国語で記載されている場合は、日本語での翻訳文が必要です。
送金関係書類は、扶養控除の適用を受ける年ごとに、扶養親族ごとに提出または提示が必要です。例えば、同じ年に複数の国外居住親族に送金している場合、それぞれの親族への送金を証明する必要があります。
扶養控除額
扶養親族の年齢等に応じて、控除額は以下のようになります。
| 区分 | 年齢 | 控除額(所得税) | 控除額(住民税) | | :-------------------- | :-------------- | :--------------- | :--------------- | | 一般の控除対象扶養親族 | 16歳以上19歳未満 | 38万円 | 33万円 | | 特定扶養親族 | 19歳以上23歳未満 | 63万円 | 45万円 | | 老人扶養親族(同居老親等以外) | 70歳以上 | 48万円 | 38万円 | | 老人扶養親族(同居老親等) | 70歳以上で同居 | 58万円 | 45万円 |
※同居老親等とは、納税者やその配偶者の直系尊属(父母、祖父母など)で、納税者やその配偶者のいずれかとの同居を常としている方を指します。
配偶者控除・配偶者特別控除の詳細
配偶者控除または配偶者特別控除は、納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合に受けられる所得控除です。
配偶者控除の要件
配偶者控除の対象となる「控除対象配偶者」とは、その年の12月31日時点で以下の全ての要件を満たす方を指します。
- 民法の規定による配偶者:内縁関係の人は該当しません。
- 納税者と生計を一にしている:扶養控除の場合と同様、「生計を一にしている」ことが必要です。
- 合計所得金額:その年の合計所得金額が48万円以下であること。(給与のみの場合は、給与収入が103万円以下に相当します。)
- 青色申告者等の事業専従者でない:青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、又は白色申告者の事業専従者でないこと。
- 納税者本人の合計所得金額:納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であること。
配偶者特別控除の要件
配偶者特別控除は、配偶者の合計所得金額が48万円を超えていても、一定の範囲内であれば受けられる所得控除です。配偶者控除の要件のうち、「配偶者の合計所得金額が48万円以下であること」以外の要件を満たし、かつ以下の全ての要件を満たす方が対象です。
- 配偶者の合計所得金額:その年の配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下であること。
- 配偶者が納税者の扶養控除の対象となっていないこと。
- 納税者本人の合計所得金額:納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であること。
控除額
配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額は、納税者本人と配偶者の合計所得金額に応じて細かく定められています。ここでは概要を示しますが、詳細は国税庁のウェブサイト等でご確認ください。
配偶者控除額(所得税)
| 納税者本人の合計所得金額 | 配偶者の年齢が70歳未満 | 配偶者の年齢が70歳以上(老人控除対象配偶者) | | :----------------------- | :--------------------- | :----------------------------------------- | | 900万円以下 | 38万円 | 48万円 | | 900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 | | 950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
配偶者特別控除額(所得税)
配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下の場合に、納税者本人の合計所得金額に応じて、控除額が細かく設定されています。(最大38万円から最小1万円まで)
例えば、納税者本人の合計所得金額が900万円以下の場合、配偶者の合計所得金額が48万円超95万円以下であれば38万円の控除が受けられます。配偶者の所得が増えるに従って控除額は段階的に減少していきます。
住民税の控除額は、所得税とは異なりますのでご注意ください。
手続き方法
扶養控除や配偶者控除(特別控除)を適用するためには、勤務先の年末調整またはご自身での確定申告が必要です。
年末調整での手続き
会社員など給与所得者は、勤務先が行う年末調整でこれらの控除の申告ができます。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書:主に扶養控除に関する情報を記載します。家族の氏名、マイナンバー(日本国内居住者のみ)、生年月日などを記入します。国外居住親族がいる場合は、その旨を記載し、後述の必要書類を提出または提示します。
- 給与所得者の配偶者控除等申告書:配偶者控除または配偶者特別控除に関する情報を記載します。配偶者の氏名、マイナンバー、生年月日、そして配偶者の合計所得金額の見積額を記載します。
これらの申告書を期日までに勤務先に提出することで、その年の所得税の計算に控除が反映されます。年末調整で控除が適用された場合、原則として確定申告は不要です。
確定申告での手続き
以下のような場合は、ご自身で確定申告を行う必要があります。
- 年末調整の対象とならない方(年収2,000万円を超える給与所得者、2ヶ所以上から給与を受けている方など)
- 自営業やフリーランスの方
- 年末調整で扶養控除や配偶者控除の申告を忘れた場合
- 国外居住親族に関する書類の提出が年末調整に間に合わなかった場合
確定申告の期間は、原則としてその年の翌年2月16日から3月15日までです。この期間内に、税務署に確定申告書を提出し、納税または還付の手続きを行います。
確定申告書には、所得や控除に関する詳細を記載し、国外居住親族に関する書類なども添付または提示します。e-Tax(電子申告)を利用することも可能です。
手続き上の注意点
- 必要書類の準備:特に国外居住親族に関する書類(親族関係書類、送金関係書類)は、取得に時間がかかる場合がありますので、早めに準備を進めることが重要です。送金関係書類は、毎年の送金状況を示す必要があるため、計画的な送金と記録の保管が大切です。
- 所得金額の見積もり:配偶者控除や配偶者特別控除を受けるためには、配偶者のその年の合計所得金額の見積もりが必要です。年の途中で配偶者の働き方や収入が変わった場合は、見積もり額を適切に修正する必要があります。
- 過去の申告漏れ:もし過去に扶養控除や配偶者控除の適用漏れがあった場合は、「更正の請求」を行うことで、納めすぎた税金が還付される可能性があります。更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内に行う必要があります。
- 税務署からの問い合わせ:申告内容について、税務署から確認の問い合わせが入る場合があります。申告内容を証明できるよう、関連書類は一定期間保管しておきましょう。
関連情報と専門家への相談
扶養控除や配偶者控除に関する情報は、国税庁のウェブサイトに詳しく掲載されています。「タックスアンサー」などのコーナーで、Q&A形式でも確認できます。
- 国税庁ウェブサイト: https://www.nta.go.jp/
また、個別の状況(例えば、国外居住親族のケースで書類の取得が難しい、複数の所得がある、過去の申告に不安があるなど)によっては、判断が難しい場合もあります。そのような場合は、税務署の相談窓口を利用したり、税理士に相談したりすることを検討しましょう。
- 税務相談:最寄りの税務署で対面または電話による相談が可能です。(予約が必要な場合があります)
- 税理士:税務の専門家である税理士は、個別の状況に応じたアドバイスや、確定申告書の作成代行などを依頼できます。外国籍の方の税務に詳しい税理士を探すのも一つの方法です。
まとめ
扶養控除と配偶者控除(配偶者特別控除)は、日本での税負担を軽減するための重要な制度です。これらの制度を正しく理解し、ご自身の家族構成や所得状況に合わせて適切に申告することで、節税効果を得ることができます。
特に、国外に居住する親族を扶養とする場合は、親族関係書類や送金関係書類の準備が必要です。これらの書類は、円滑な手続きのために計画的に準備することをお勧めします。
この記事が、皆様の日本での税務手続きの一助となれば幸いです。ご不明な点や複雑なケースについては、税務署や税理士にご相談ください。