日本での副業・兼業:外国籍の方が知っておくべき法律、税金、在留資格への影響
はじめに
日本で生活する外国籍の皆様の中には、本業以外にスキルや経験を活かして副業や兼業を行いたい、あるいは収入源を増やしたいとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。日本における副業・兼業は、働き方の多様化とともに注目されていますが、外国籍の方がこれを行う際には、いくつかの重要な法律やルール、特に「在留資格」に関連する注意点があります。
この記事では、日本で副業・兼業を検討する外国籍の皆様が知っておくべき、在留資格、税金、労働に関する基本的なルールや手続きについて解説します。ご自身の状況に合わせて正しく理解し、適切な手続きを行うための参考にしてください。
在留資格と副業・兼業の原則
外国籍の方が日本で行うことができる活動は、お持ちの在留資格によって定められています。これは出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)に基づいており、在留資格で認められている範囲外の活動を行うことは原則として許されていません。
副業や兼業は、本業とは別の活動となるため、お持ちの在留資格で認められている活動の範囲を超える可能性があります。この場合、「資格外活動許可」を取得する必要があります。
資格外活動許可とは
資格外活動許可とは、現在お持ちの在留資格で認められている活動以外の収入を伴う事業を運営する活動または報酬を受ける活動を行おうとする場合に、あらかじめ出入国在留管理庁から受ける必要のある許可です。この許可なく在留資格で定められた活動以外の就労活動を行った場合、不法就労となり、退去強制事由に該当する可能性がありますので、非常に重要な手続きです。
資格外活動許可が必要なケース・不要なケース
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必要となるケース:
- 現在お持ちの在留資格(例:「技術・人文知識・国際業務」など)で認められている活動とは異なる種類の仕事で収入を得る場合。
- 本業と同じ種類の仕事であっても、所属機関が異なる場合(ただし、一部例外あり)。
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原則不要なケース:
- お持ちの在留資格が「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」の場合。これらの在留資格は活動制限が少ないため、原則としてどのような種類の仕事でも行うことができます。(ただし、公序良俗に反する活動や、法令違反となる活動はできません。)
- 研究活動など、本業に付随する形で行われ、独立した事業活動や報酬を目的としない活動。
資格外活動許可の取得条件
資格外活動許可は、申請すれば必ず取得できるものではありません。以下の条件を満たす必要があります。
- 申請者が行うとする活動が、収入を伴う事業を運営する活動または報酬を受ける活動であること。
- 申請者が現に有する在留資格に係る活動を妨げるものでないこと。
- 行おうとする活動が、現に有する在留資格に応じた活動と、その在留資格に応じた活動を継続的に行うことを前提として行うものであること。
- 行おうとする活動が、風俗営業または善良の風俗、公の秩序を害するおそれのある活動に従事するものでないこと。
- 行おうとする活動が他の法令に違反しないこと。
- 包括許可(週28時間以内の就労活動)の対象活動である場合(主に「留学」「家族滞在」の在留資格者が対象ですが、「技術・人文知識・国際業務」などの就労系在留資格の方も、本業と関連性の薄い活動を行う場合にこの枠内で許可されることがあります)。または、包括許可の対象とならない活動の場合、個別許可の要件を満たすこと(特定の事業所で行う特定の活動に対して許可されます)。
- 申請人が、本邦において行うことのできる在留資格に応じた活動を適切に行っていること(例:正社員として働いている、学校に真面目に通っているなど)。
- 申請人が、本邦において相当期間在留していること。
- 申請人が、素行が不良でないこと。
就労系在留資格(例:「技術・人文知識・国際業務」)をお持ちの方が、本業に関連する分野や専門性を活かした副業を行う場合は、個別許可の対象となる可能性があります。その際には、本業の活動を妨げないこと、副業の内容が専門性やスキルに関連していることなどが考慮されます。
資格外活動許可の申請手続き
資格外活動許可の申請は、最寄りの地方出入国在留管理官署で行います。
- 必要書類の例:
- 資格外活動許可申請書
- 申請人のパスポートおよび在留カード
- 申請理由書(なぜ副業・兼業が必要なのか、どのような活動を行うのかなどを具体的に記載)
- 副業・兼業先の概要を示す資料(契約書、事業内容の説明書など)
- (本業がある場合)本業に関する資料(在職証明書など)
申請書類や必要資料は、個別の状況や行いたい活動内容によって異なりますので、事前に必ず出入国在留管理庁のウェブサイトを確認するか、最寄りの出入国在留管理官署に問い合わせるようにしてください。
また、複雑なケースや申請に不安がある場合は、行政書士(入管業務専門)に相談することをお勧めします。
副業・兼業と税金
副業・兼業によって得た収入は、日本の税法に基づき税金(所得税、住民税など)の対象となります。税金に関するルールは複雑ですので、基本的な考え方を理解しておくことが重要です。
所得の種類
副業・兼業で得た収入は、その内容によって所得区分が異なります。
- 給与所得: アルバイトやパートとして雇用されて働く場合。
- 事業所得: 継続的、反復的に行う事業から生じる所得(個人事業主として独立して行う仕事など)。
- 雑所得: 上記のいずれにも該当しない所得(単発の講演料、原稿料、アフィリエイト収入など)。
副業の所得の種類によって、経費として認められる範囲や計算方法、税金の計算方法などが異なります。
所得税の確定申告
会社員として本業で給与を得ている方は、通常、会社が年末調整を行ってくれるため、ご自身で確定申告をする必要はありません。しかし、副業・兼業で一定以上の所得がある場合は、ご自身で確定申告を行う必要があります。
- 確定申告が必要となるケースの例:
- 副業で得た所得(給与所得、事業所得、雑所得など)から、経費や給与所得控除などを差し引いた所得金額が年間20万円を超える場合。
- 年収が2,000万円を超える場合。
- 複数の会社から給与を得ている場合。
- 一定の医療費控除や住宅ローン控除などを初めて適用する場合。
副業の所得が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要となる場合が多いため注意が必要です。(市区町村によって取り扱いが異なることがあります。)
住民税
住民税は、前年の所得に対して課税されます。確定申告をすれば、その情報が市区町村に連携されるため、改めて住民税の申告は不要です。しかし、所得税の確定申告が不要な場合(副業所得20万円以下など)でも、住民税の計算のために市区町村への申告が必要となることがあります。
住民税の納付方法には、特別徴収(給与から天引き)と普通徴収(自分で納付)があります。副業の所得に対する住民税を、本業の給与からの天引きにすると、本業の会社に副業を知られる可能性があります。副業の住民税を普通徴収にすることで、会社に知られるリスクを減らすことができます。(ただし、市区町村のシステムによっては完全に回避できない場合もあります。)
消費税、インボイス制度など
副業の規模が大きくなり、一定の売上高(基準期間の課税売上高が1,000万円など)を超えると、消費税の課税事業者となります。 2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税の仕入税額控除を受けるための制度です。副業として課税事業者と取引を行う場合、インボイス発行事業者になる必要があるかなど、検討すべき事項が増えます。
税金に関するルールは個々の状況によって適用が異なり、法改正も頻繁に行われます。ご自身の副業・兼業収入に関する正確な税務処理については、税理士に相談することをお勧めします。
副業・兼業と社会保険
会社員として健康保険や厚生年金といった社会保険に加入している方が副業・兼業を行う場合、社会保険料の計算に影響が出ることがあります。
本業の社会保険との関係
社会保険料は、標準報酬月額に基づいて計算されます。複数の会社から給与を得ている場合、原則として主たる事業所(収入が多い方など)でまとめて手続きを行い、各事業所からの報酬を合算した額に基づいて保険料が計算されることになります。この場合、副業をしていることが本業の会社に通知されることになります。
ただし、副業が給与所得ではなく事業所得や雑所得である場合、通常は本業の社会保険に直接影響はありません。しかし、副業の所得が増えると、住民税の金額が増加し、それに連動して国民健康保険料(本業の健康保険に加入していない場合)や介護保険料(40歳以上の場合)が増える可能性はあります。
副業先での社会保険加入義務
副業先で雇用契約を結んで働く場合、その副業先での労働時間や日数、雇用期間によっては、副業先で社会保険(健康保険、厚生年金)や雇用保険への加入義務が発生することがあります。これにより、社会保険料の負担が増える可能性があります。
社会保険に関する詳細は、ご自身の加入している健康保険組合や年金事務所、あるいは社会保険労務士にご確認ください。
雇用契約・就業規則との関係
副業・兼業を行う前に、現在お勤めの会社の就業規則を確認することが非常に重要です。日本では、多くの会社で従業員の副業を制限または禁止する規定を設けています。
たとえ法律上・在留資格上副業が認められていても、会社の就業規則に違反して副業を行った場合、懲戒処分や解雇の理由となる可能性があります。事前に会社の規定を確認し、必要であれば会社の許可を得るなどの対応が必要です。
また、本業で得た機密情報や顧客情報を副業で利用するなどの行為は、契約違反や不正競争防止法に抵触する可能性がありますので、厳に慎む必要があります。
まとめ
日本で外国籍の方が副業・兼業を行うことは可能ですが、在留資格の制限、資格外活動許可の必要性、税金、社会保険、そして本業の会社の規則など、多くの点に注意が必要です。
特に在留資格に関しては、不適切な活動や手続きの漏れが、将来の在留資格更新や永住許可申請に悪影響を及ぼす可能性があります。必ず事前に出入国在留管理庁に確認するか、専門家である行政書士に相談して、必要な資格外活動許可を取得するようにしてください。
税金や社会保険についても、個人の状況や所得によって対応が大きく異なります。確定申告や各種手続きを適切に行うためにも、必要であれば税理士や社会保険労務士といった専門家の助言を得ることを強くお勧めします。
正確な情報を把握し、ルールを守ることで、安心して日本での副業・兼業を進めることができるでしょう。より詳細な情報や最新の制度については、必ず関連する行政機関(出入国在留管理庁、税務署、市区町村役場、年金事務所など)の公式ウェブサイトをご確認ください。