日本在住外国籍投資家向け 税務ガイド:株式・投資信託等の売却益・配当にかかる税金と申告方法
はじめに
日本で数年間生活され、キャリアを積み、資産形成に関心をお持ちの皆様の中には、日本国内で株式や投資信託等の金融商品による資産運用を検討されている方や、すでに始めていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
投資によって得られた利益には税金がかかります。日本の税法は居住者の所得に対して課税する「全世界所得課税」が原則であり、日本に住む外国籍の方も、原則として日本人と同様の税務ルールが適用されます。特に、日本国内で投資によって得られた売却益や配当金に対する税金は、取引口座の種類や収入の種類によって取り扱いが異なり、複雑に感じられるかもしれません。
このガイドでは、日本に居住する外国籍の方が、日本国内での株式や投資信託等の取引で得た譲渡所得(売却益)や配当所得にかかる税金の仕組み、計算方法、そして確定申告が必要になるケースと手続きについて解説します。
ただし、税法は改正されることがあります。また、個々の状況によって税務上の取り扱いは異なります。記載内容は一般的な情報であり、具体的な判断については必ず税務署や税理士などの専門家にご相談ください。
日本での投資に係る税金の基本
日本国内での株式や投資信託等の取引によって得られる主な所得には、「譲渡所得」と「配当所得」があります。これらの所得には、原則として所得税と住民税が課税されます。
- 譲渡所得: 株式や投資信託等を売却した際に発生する利益(売却益)です。
- 配当所得: 株式を保有している場合に受け取る配当金や、投資信託の分配金(元本払戻金(特別分配金)を除く)などです。
これらの所得に対する税率は、2023年12月現在、所得税15%(復興特別所得税2.1%を含む場合は15.315%)と住民税5%を合わせた合計20.315%が基本となります。多くの場合、「申告分離課税」として、他の所得(給与所得など)とは分離して課税されます。
譲渡所得(売却益)にかかる税金
株式や投資信託等を売却して利益が出た場合、その利益は譲渡所得として課税されます。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得は、以下の計算式で算出されます。
譲渡所得 = 収入金額(売却代金) - 取得費 - 委託手数料等
- 収入金額: 株式や投資信託等を売却して受け取った金額です。
- 取得費: 購入した際の代金や購入手数料など、その金融商品を取得するためにかかった費用です。同じ銘柄を複数回購入している場合は、原則として移動平均法などを使って計算します。
- 委託手数料等: 売却にかかった手数料などです。
特定口座、一般口座、NISA口座の税務上の違い
日本国内の証券会社で取引を行う場合、主に以下の3種類の口座があります。どの口座で取引を行うかによって、税務上の手続きが大きく異なります。
- 特定口座(源泉徴収あり):
- 最も一般的な口座です。
- 証券会社が売却損益や配当金を計算し、税金を自動的に計算・徴収して納付してくれます。
- 原則として、この口座内の取引については確定申告が不要です。(ただし、他の口座との損益通算や繰越控除を利用したい場合は確定申告が必要です。)
- 税率は20.315%です。
- 特定口座(源泉徴収なし):
- 証券会社が年間の売却損益を計算した「年間取引報告書」を作成してくれます。
- 税金の計算・納付は証券会社は行いません。ご自身で確定申告を行う必要があります。
- 税率は20.315%です。
- 一般口座:
- 証券会社は年間の売却損益の計算や、年間取引報告書の作成を行いません。
- ご自身で年間の取引全てについて売却損益を計算し、確定申告を行う必要があります。
- 税率は20.315%です。
- 確定申告が必要なケースとしては、例えば外国株式などを日本の証券会社を通さずに直接取引した場合なども、一般口座と同様にご自身で計算・申告が必要です。
- NISA口座:
- 年間投資枠内で購入した金融商品から得られる売却益と配当金(国内上場株式等に限る)が、非課税になります。
- 非課税期間や投資枠には上限があります。
- NISA口座内の取引については、確定申告は不要です。
- ただし、NISA口座内で損失が出ても、他の口座(特定口座や一般口座)の利益との損益通算や繰越控除はできません。
多くの外国人居住者にとって、税務手続きの手間が少ない特定口座(源泉徴収あり)が推奨されます。
損益通算と繰越控除
複数の特定口座や一般口座、または同じ口座内で、ある銘柄で利益が出て、別の銘柄で損失が出た場合、その利益と損失を相殺することができます。これを「損益通算」といいます。
損益通算の結果、控除しきれない損失が残った場合、その損失を翌年以降最長3年間にわたって繰り越して、翌年以降の譲渡所得等から控除することができます。これを「繰越控除」といいます。損益通算や繰越控除を利用するためには、確定申告が必要になります。特定口座(源泉徴収あり)のみで取引を行い、他に損益通算したい損失がない場合は、確定申告は不要です。
配当所得にかかる税金
株式の配当金や投資信託の分配金は配当所得として課税されます。
源泉徴収
国内上場株式等の配当金を受け取る際、通常は既に税金が源泉徴収されています。特定口座(源泉徴収あり)であれば、譲渡所得と同様に自動で税金が差し引かれています。
申告不要制度、総合課税、申告分離課税の選択
国内上場株式等の配当所得については、以下の3つの課税方法を選択できます。
- 申告不要制度:
- 既に源泉徴収されているため、確定申告をしないことで税務手続きを終える方法です。
- 所得税15.315%+住民税5%=20.315%が源泉徴収され、そのまま納税完了となります。
- 原則として、確定申告が不要になるため、最も手続きが簡単です。
- 総合課税:
- 配当所得を他の所得(給与所得など)と合算して、累進課税(所得が多くなるほど税率が高くなる税率)で税金を計算する方法です。
- 所得税率は5%〜45%、住民税率は10%です。
- 特定の条件を満たす場合、税金が控除される「配当控除」を受けることができます。
- 他の所得が少ない方にとっては、申告不要制度よりも税負担が軽くなる可能性があります。
- 確定申告が必要です。
- 申告分離課税:
- 配当所得を他の所得とは分離して、譲渡所得等と同じく一律20.315%の税率で課税する方法です。
- 譲渡損失がある場合に、配当所得と損益通算したい場合にこの方法を選択します。
- 確定申告が必要です。
どの方法を選択するかは、ご自身の所得状況や譲渡損益の有無によって有利不利が分かれます。一般的には、税務手続きの簡便さから申告不要制度を選択するケースが多いですが、所得が少ない場合や多額の譲渡損失がある場合は、総合課税や申告分離課税を選択することで税負担を軽減できる可能性があります。
確定申告が必要になる主なケース
特定口座(源泉徴収あり)のみで取引を行っている場合、原則として確定申告は不要です。しかし、以下のような場合は確定申告が必要、または確定申告を行うことで税務上のメリットを受けられる可能性があります。
- 特定口座(源泉徴収なし)または一般口座で取引を行った場合
- 複数の証券会社の特定口座(源泉徴収あり)を利用しており、異なる口座間で損益通算したい場合
- 過去の譲渡損失を繰越控除したい場合
- 国内上場株式等の配当所得について、総合課税を選択して配当控除の適用を受けたい場合
- 国内上場株式等の配当所得について、申告分離課税を選択して譲渡損失と損益通算したい場合
- 海外の証券会社で取引を行った場合(この場合は原則として一般口座と同様の扱いとなり、ご自身で損益を計算して申告が必要です。また、海外で既に税金が源泉徴収されている場合、一定の条件を満たせば「外国税額控除」を受けられる可能性がありますが、これは確定申告が必要です。)
- NISA口座以外で、非上場株式等を売却した場合
確定申告は、原則として所得のあった年の翌年2月16日から3月15日までに行います。手続きは税務署で行うか、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用してオンラインで行うことも可能です。
必要書類
確定申告を行う際には、主に以下の書類が必要になります。
- 確定申告書
- 年間取引報告書(特定口座の場合)
- 取引報告書(一般口座の場合、ご自身で集計・計算が必要です)
- 支払通知書(配当金の場合)
- その他、所得や控除に関する書類
注意点と専門家への相談
- 税法の改正: 税法は改正されることがありますので、常に最新の情報をご確認ください。
- 複雑な取引: 株式、投資信託以外にも、FX、CFD、不動産、未公開株式など、様々な投資対象があり、それぞれ税務上の取り扱いが異なる場合があります。
- 国際税務: 海外資産や海外からの収入、または居住期間によって税務上の取り扱いが複雑になることがあります(例:非永住者と永住者の違い、租税条約の適用など)。これらの詳細については、税務署や専門家にご確認ください。
- 専門家への相談: ご自身の投資状況や所得状況、特に複数の金融機関で取引している場合や海外資産がある場合など、複雑なケースについては、税理士などの税務の専門家にご相談いただくことを強く推奨します。正確な税務申告を行うために、専門家のアドバイスは非常に役立ちます。
まとめ
日本での投資に係る税金は、取引する金融商品や口座の種類、ご自身の所得状況によって、その計算方法や確定申告の要不要が異なります。特に譲渡所得や配当所得にかかる税金は、特定口座(源泉徴収あり)を利用することで手続きを簡略化できることが多いですが、損益通算や繰越控除を利用したい場合、あるいは一般口座等で取引した場合は確定申告が必要となります。
税務手続きを正しく理解し、適切に対応することは、日本での生活において非常に重要です。ご自身の投資スタイルに合った口座選択や、必要に応じた確定申告を適切に行ってください。ご不明な点や複雑な状況については、速やかに税務署や税理士にご相談されることをお勧めいたします。正確な情報を得るためには、国税庁のウェブサイトも参照してください。
- 国税庁ウェブサイト: https://www.nta.go.jp/