日本で働く外国人向け:企業型DC加入者のためのiDeCo活用ガイドと注意点
日本で働く外国籍の方々にとって、将来に向けた資産形成は重要な関心事の一つです。公的年金制度に加え、私的な年金制度である確定拠出年金(DC)を活用することで、税制優遇を受けながら効率的に資産を増やすことが可能です。
確定拠出年金には、企業が掛金を拠出する「企業型確定拠出年金(企業型DC)」と、個人が掛金を拠出する「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の2種類があります。多くの企業では企業型DCが導入されていますが、「企業型DCに加入している場合でも、iDeCoに加入できるのか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
この記事では、企業型DCに加入している外国籍の方が、iDeCoを併用するためのルール、具体的な手続き、そして知っておくべき注意点について詳しく解説します。ご自身の状況に合わせて、最適な資産形成方法を選択するための一助となれば幸いです。
企業型DCとiDeCoの基本的な仕組み
まずは、企業型DCとiDeCoの基本的な仕組みを簡単に確認します。
- 確定拠出年金(DC): 拠出された掛金とその運用益の合計額をもとに、将来受け取る年金額が決まる年金制度です。「確定拠出」という名称の通り、拠出額が確定しているのが特徴です。運用は加入者自身が行います。
- 企業型確定拠出年金(企業型DC): 企業が掛金を拠出し、従業員が運用する制度です。導入している企業に勤務している従業員が加入できます。企業によっては、企業が拠出する掛金(事業主掛金)に加えて、加入者自身が掛金を追加で拠出すること(マッチング拠出)が認められている場合があります。
- 個人型確定拠出年金(iDeCo - イデコ): 加入者自身が掛金を拠出し、運用する制度です。原則として、20歳以上65歳未満の国民年金の被保険者であれば加入できます。自営業者、会社員、公務員、専業主婦(夫)など、様々な方が対象となりますが、加入区分や働き方によって掛金の上限額が異なります。
これらの制度で運用した資産は、原則として60歳以降にならないと受け取ることができません。また、拠出した掛金は所得控除の対象となる(企業型DCの事業主掛金は給与として扱われない、iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除の対象となる)ため、所得税や住民税の負担を軽減できる税制優遇措置があります。運用益も非課税で再投資されます。
企業型DC加入者がiDeCoに加入できる条件
以前は、企業型DCに加入している方は原則としてiDeCoに加入できませんでした。しかし、法改正により、2017年1月からは企業型DC加入者でもiDeCoに加入できるようになりました。
ただし、すべての企業型DC加入者が無条件にiDeCoに加入できるわけではありません。以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 企業型DCの規約でiDeCoへの同時加入が認められている場合
- これは最も一般的なケースです。お勤め先の企業型DCの規約で、従業員がiDeCoに加入することが許可されている必要があります。まずは会社の担当部署(人事部など)に確認することをお勧めします。
- 企業型DCのマッチング拠出をしていない場合
- お勤め先の企業型DCでマッチング拠出(加入者自身が掛金を上乗せして拠出すること)を利用している場合、iDeCoには加入できません。マッチング拠出を利用するか、iDeCoを利用するかのいずれか一方を選択する必要があります。
- 企業型DCの事業主掛金が月額5.5万円(他の企業年金がある場合は月額2.75万円)以下である場合
- 企業型DCとiDeCoの掛金には、合計で上限額が定められています。お勤め先の企業型DCの事業主掛金がこの上限額を超えている場合、iDeCoには加入できません。ほとんどの場合、事業主掛金がこの上限額以下であるため、この条件でiDeCoに加入できないケースは少ないです。
これらの条件、特に「企業型DC規約での許可」と「マッチング拠出の利用状況」が、企業型DC加入者がiDeCoに加入できるかどうかの重要なポイントとなります。
iDeCoの掛金上限額について
企業型DCとiDeCoを併用する場合、iDeCoに拠出できる掛金には上限があります。この上限額は、お勤め先の企業型DCの掛金額や、他の企業年金制度(確定給付企業年金など)に加入しているかどうかによって異なります。
-
企業型DCのみに加入している場合:
- iDeCoの月額掛金上限額は2万円です。
- ただし、企業型DCの事業主掛金とiDeCoの個人掛金の合計が月額5.5万円を超えることはできません。もし企業型DCの事業主掛金が月額3.5万円を超える場合は、iDeCoの月額掛金上限額2万円から、事業主掛金が3.5万円を超過した額を差し引いた額が、iDeCoの掛金上限となります。(例:事業主掛金が4万円の場合、5.5万円 - 4万円 = 1.5万円がiDeCoの上限)
-
企業型DCと他の企業年金(確定給付企業年金など)にも加入している場合:
- iDeCoの月額掛金上限額は1.2万円です。
- ただし、企業型DCの事業主掛金、他の企業年金の掛金相当額、iDeCoの個人掛金の合計が月額2.75万円を超えることはできません。このため、企業型DCと他の企業年金の掛金相当額が大きい場合は、iDeCoに拠出できる金額が1.2万円より少なくなる、あるいは拠出できなくなる可能性もあります。
ご自身の正確な掛金上限額を知るためには、お勤め先の企業型DCの掛金額を確認し、国民年金基金連合会のウェブサイトなどで詳細な計算方法をご確認ください。
iDeCo加入手続きのステップ
企業型DC加入者がiDeCoに加入する場合も、基本的な手続きの流れは通常のiDeCo加入手続きと同様です。
- iDeCoを取り扱う運営管理機関を選ぶ:
- iDeCoは、証券会社、銀行、保険会社などの「運営管理機関」を通じて申し込みます。運営管理機関によって、手数料(口座管理手数料など)や選べる運用商品が異なります。ご自身の運用方針や希望する商品ラインナップ、手数料などを比較検討して選びましょう。
- 申込書類を入手・記入する:
- 選んだ運営管理機関から申込書類一式を取り寄せます。
- 申込書類には、ご自身の情報、加入区分(会社員の場合は第2号被保険者)、掛金の額などを記入します。
- 企業型DC加入者の場合、お勤め先の企業に「事業主の証明書」を記入してもらう必要があります。 この証明書には、企業型DCの規約でiDeCoへの同時加入が認められているか、マッチング拠出の利用状況などが記載されます。この書類がないとiDeCoに申し込めません。
- 必要書類を提出する:
- 記入済みの申込書類と、マイナンバー確認書類、本人確認書類などを運営管理機関に提出します。
- 国民年金基金連合会での審査:
- 提出された書類は、国民年金基金連合会に送付され、iDeCoに加入できるかの資格審査が行われます。特に企業型DC加入者の場合は、「事業主の証明書」の内容に基づき、iDeCoへの加入条件を満たしているかが確認されます。
- 口座開設完了:
- 審査が完了すると、iDeCoの口座が開設されます。加入者番号や今後の手続きに関する書類が送られてきます。掛金の引き落としも開始されます。
- 運用指図を行う:
- 口座が開設されたら、掛金をどのような運用商品(投資信託など)で運用するかを自分で選択し、指図を行う必要があります。運用指図を行わないと、掛金は自動的に元本保証型商品などで運用される場合がありますので注意が必要です。
手続きには1ヶ月半から2ヶ月程度かかるのが一般的です。余裕を持って手続きを進めることをお勧めします。
企業型DCとiDeCoを併用する際の注意点
併用することで資産形成の選択肢が広がりますが、いくつかの注意点があります。
- 掛金の上限に注意: 上記で説明した通り、企業型DCとiDeCoの掛金には合算での上限額が定められています。上限を超えて拠出することはできません。
- マッチング拠出との排他: 企業型DCでマッチング拠出を利用している場合はiDeCoに加入できません。どちらか一方の制度を選択する必要があります。税制優遇の効果や掛金の上限額などを比較して、どちらを利用するか検討しましょう。
- 管理の手間: 企業型DCとiDeCoの二つの制度に加入することになるため、それぞれで運用商品の選択や手続きを行う必要があります。管理の手間が多少増えることを理解しておきましょう。
- 原則60歳まで引き出せない: どちらの制度も、拠出した資産は原則として60歳になるまで引き出すことができません。急な資金が必要になった場合でも利用できないため、あくまで老後資金のための制度として位置づけ、別に流動性の高い資産も確保しておくことが重要です。
- 運用リスク: 確定拠出年金は自分で運用商品を選び、運用を行うため、市場の変動によっては元本割れのリスクがあります。運用商品の特徴を理解し、ご自身のリスク許容度に応じた分散投資を心がけましょう。
- 手数料: iDeCoには、国民年金基金連合会や運営管理機関に対して支払う手数料が発生します。これらの手数料は運用資産から差し引かれるため、長期的な運用成果に影響します。手数料の低い運営管理機関や商品を選ぶことも検討しましょう。企業型DCにも手数料は発生しますが、通常は企業が負担します。
- 転職・退職時の手続き: 転職や退職をする場合、企業型DCの資産を持ち運ぶ(移換する)手続きが必要になります。iDeCoも同様に手続きが必要な場合があります。併用している場合は、より複雑になる可能性があるため、手続きを忘れないように注意が必要です。転職先の企業型DCへの移換、iDeCoへの移換、または一時金としての受取(条件あり)など、複数の選択肢がある場合があります。
まとめ
企業型DCに加入している外国籍の方でも、一定の条件を満たせばiDeCoに加入し、両制度を併用することが可能です。これにより、さらに多くの掛金を税制優遇を受けながら積み立てることができ、将来に向けた資産形成を加速させることが期待できます。
しかし、併用には掛金の上限、マッチング拠出との関係、手続き、管理の手間、そして運用リスクなど、いくつかの注意点があります。ご自身の働き方や企業の制度、資産状況などを踏まえ、メリット・デメリットを十分に理解した上で、併用するかどうかを検討することが重要です。
企業型DCの規約や、ご自身の正確な掛金上限額、転職時の手続きなど、不明な点がある場合は、お勤め先の人事担当者、iDeCoの運営管理機関、または必要に応じてファイナンシャルプランナーなどの専門家にご相談いただくことをお勧めします。信頼できる情報源として、国民年金基金連合会(iDeCo公式サイト)や厚生労働省のウェブサイトも参照ください。
計画的な資産形成を通じて、日本での安心できる将来設計を進めていきましょう。