外国人向け日本生活ルールブック

外国人向け 日本に住む方が知っておくべき国際税務の基礎知識:居住者・非居住者、租税条約、国外財産

Tags: 国際税務, 税金, 居住者, 非居住者, 租税条約, 国外財産, 相続税, 贈与税, 税理士

はじめに

日本で数年にわたりキャリアを築き、あるいは家族と共に生活されている外国籍の皆様にとって、日本での生活は安定しつつも、将来のキャリアプランや資産形成、さらには永住といった次のステップを考える時期に来ているかもしれません。これらのステップにおいては、単に日々の生活に関するルールだけでなく、より専門的で複雑な法律や制度に関する知識が必要となります。

特に税金に関する知識は、資産の形成・管理、本国への送金、将来的な移住や相続といったライフイベントに深く関わるため、正確に理解しておくことが非常に重要です。日本の税法は、居住形態や財産の所在地によって適用されるルールが大きく異なります。海外との取引や資産がある場合、さらに複雑な国際税務の知識が必要となることがあります。

このガイドでは、日本に住む外国籍の方が知っておくべき国際税務の基本的な枠組みについて、居住者・非居住者の判定、租税条約、国外財産に関する制度を中心に解説します。ご自身の状況に照らし合わせ、適切な税務上の対応を行うための一助となれば幸いです。

日本の税法上の「居住者」と「非居住者」

日本の所得税法において、納税義務の範囲を定める上で最も重要な区分は「居住者」と「非居住者」です。ご自身がどちらに該当するかによって、課税される所得の範囲が全く異なります。

居住者とは

「居住者」とは、日本国内に「住所」を有するか、または現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人を指します。

日本に生活の拠点があり、継続的に居住している方の多くは「居住者」に該当します。

非居住者とは

「非居住者」とは、居住者以外の個人を指します。つまり、日本国内に住所も居所もなく、生活の本拠が日本以外の国にある個人です。

居住者・非居住者の判定が重要な理由:課税範囲の違い

特定の居住者区分:「非永住者」

日本の所得税法では、居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人を「非永住者」と定義しています。

この非永住者は、居住者でありながら、国外源泉所得については、以下のいずれかに該当する場合にのみ日本で課税されるという特別な扱いを受けます。

非永住者に該当する外国籍の方の場合、海外にある銀行口座の利子や海外不動産の賃料収入などを受け取っていても、その所得が日本国内で支払われたり、その所得自体またはそれ以外の資金が日本国内に送金されたりしない限り、日本の所得税の課税対象とはなりません。多くの駐在員や、日本での滞在期間が比較的短い外国籍の方は、この非永住者に該当する可能性があります。

ただし、日本国内での滞在期間が長期になり、過去10年間のうち合計5年を超えて日本に住所や居所を有していた場合は、「非永住者」に該当しなくなり、通常の居住者として全世界所得が課税対象となります。

租税条約の役割

日本は多くの国との間で租税条約を締結しています。これは、二重課税(一方の国で納税した所得に対して、もう一方の国でも課税されること)を防ぐことなどを目的とした国際間の約束です。

租税条約の主な内容

租税条約には、一般的に以下のような内容が含まれます。

租税条約の適用を受けるためには

租税条約の規定を適用して日本の税負担を軽減するためには、原則として、確定申告書の提出期限までに所轄の税務署長に対して「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります。

ご自身の本国と日本の間に租税条約があるか、またその内容がご自身の所得にどのように適用されるかについては、国税庁のウェブサイトや専門家に確認することをお勧めします。

国外財産に関する申告制度

日本に住む居住者(非永住者を含む)で、その年の12月31日現在において、その合計額が5,000万円を超える国外財産を有する場合は、「国外財産調書」を提出する義務があります。

国外財産調書の概要

国外財産調書制度の目的と重要性

この制度は、日本に住む居住者の国外財産に関する正確な情報を税務当局が把握し、適正な課税を行うことを目的としています。国外財産調書を提出期限内に提出しなかった場合や、偽りの記載があった場合には、加算税の加重や罰金といったペナルティが課されることがあります。

ご自身が国外に5,000万円以上の財産をお持ちの場合は、必ず提出義務があるか確認し、適切に対応してください。

国外送金等に関する調書制度

金融機関等を通じて100万円を超える日本からの国外送金や、国外からの円資金の受領等を行う場合、金融機関は、その取引に関する情報を税務署に提出する義務があります。これが「国外送金等に関する調書」制度です。

この制度は、税務署が個人や法人の国外との資金の流れを把握し、所得税や相続税などの申告が適正に行われているかを確認するための情報収集目的であり、この調書が提出されたこと自体が直ちに課税に繋がるわけではありません。しかし、税務調査の端緒となる可能性はあります。多額の国外送金や受領がある場合は、その資金の出所や性質(所得なのか、親族からの贈与なのかなど)を税務署に説明できる準備をしておくことが重要です。

相続税・贈与税と国際課税

相続税や贈与税も、国際的な要素が加わると複雑になります。課税される範囲は、被相続人(亡くなった方)または贈与者、相続人または受贈者の、相続開始または贈与時点における居住形態(日本国内に住所があるかなど)や国籍、そして財産の所在地によって異なります。

例えば、相続税の場合、被相続人・相続人の組み合わせに応じて、日本国内にある財産だけでなく、国外にある財産も課税対象となることがあります。特に、日本国籍を有している場合や、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していた期間がある場合は、国外財産も日本の相続税の対象となる可能性が高くなります。

国際的な相続や贈与は、関係者の居住国、国籍、財産の種類・所在地、さらに各国間の相続税や贈与税に関する条約(日本が締結している国は限られています)など、様々な要素が絡み合います。個別のケースによって適用されるルールが大きく異なるため、非常に専門的な知識が必要です。

注意点と専門家への相談

日本の税法は、国内の法律だけでも複雑ですが、国際的な要素が加わるとその複雑さは一層増します。ここで述べた内容は基本的な枠組みであり、個々の状況(所得の種類、居住形態の変動、財産の性質など)によって適用されるルールや特例が異なります。

税法は改正されることもありますので、常に最新の情報を確認することが重要です。国税庁のウェブサイトは最も信頼できる情報源ですが、内容が専門的で分かりにくいと感じるかもしれません。

ご自身の国際税務に関する疑問や、複雑な状況に対応するためには、税務の専門家、特に国際税務に詳しい税理士に相談することを強くお勧めします。税理士は、個々の状況を正確に把握し、適用される税法や租税条約に基づいた適切なアドバイスや申告手続きの代行をしてくれます。税理士を探す際には、国際税務の経験があるかどうかを確認すると良いでしょう。

まとめ

日本での生活が長期化し、キャリアの発展や資産形成が進むにつれて、国際税務に関する知識の重要性は高まります。ご自身が日本の税法上の「居住者」か「非居住者」か、また「非永住者」に該当するかを正しく理解することは、ご自身の納税義務の範囲を知る上で出発点となります。

海外との取引や資産がある場合は、租税条約の適用や国外財産調書の提出義務なども考慮に入れる必要があります。特に国際的な相続や贈与は非常に複雑ですので、専門家である税理士への相談が不可欠です。

本記事が、日本に住む外国籍の皆様が国際税務を理解し、適切に対応するための一助となれば幸いです。ご自身の状況に応じた正確な情報は、必ず専門家や国税庁の公式情報を参照してください。


関連情報・参照先

(注:上記リンクは国税庁ウェブサイトのトップページです。各制度の詳細については、サイト内で該当ページを検索してください。)