日本における国際離婚:外国籍の方が知っておくべき手続きと法律
日本における国際離婚:外国籍の方が知っておくべき手続きと法律
日本での生活が長くなるにつれ、結婚や家族形成といったライフイベントを経る方もいらっしゃるでしょう。残念ながら、時には夫婦関係が破綻し、離婚を選択せざるを得ない状況に直面することもあります。日本に住む外国籍の方の場合、夫婦のどちらか一方または両方が外国籍である「国際離婚」となり、日本の法律や手続きに加えて、いくつかの特別な考慮が必要となる場合があります。
この記事では、日本における国際離婚の基本的な知識、手続きの種類、外国籍の方が特に注意すべき点、そして専門家への相談について解説します。この情報が、複雑な国際離婚の手続きを理解し、適切な対応をとるための一助となれば幸いです。
国際離婚とは?
国際離婚とは、以下のような国際的要素を含む離婚のことを指します。
- 夫婦の一方または両方が外国籍である場合
- 夫婦が外国に居住している場合(ただし、日本の裁判所で手続きする場合などを除く)
- 夫婦が結婚した国と離婚手続きをする国が異なる場合
この記事では、主に「夫婦の一方または両方が外国籍であり、日本で離婚手続きを進める場合」に焦点を当てて説明します。
適用される法律(準拠法)について
国際離婚において、どの国の法律が適用されるか(準拠法)は非常に複雑な問題です。日本の「法の適用に関する通則法」に基づき、以下のような順番で適用法が判断されます。
- 夫婦が同一の本国法(国籍国の法律)を持つ場合、その法律。
- 同一の本国法がない場合、夫婦の常居所地法(生活の本拠がある国の法律)。
- 同一の常居所地法がない場合、夫婦に最も密接な関係がある地の法律。
多くの場合、日本に長年居住している外国籍夫婦や、日本人と外国籍の方の夫婦で日本に居住している場合は、日本の法律が適用されることが多いです。しかし、必ずしも日本の法律が適用されるとは限らず、特に海外に資産がある場合や、子供の国籍、親権などが複雑な場合は、専門的な判断が必要となります。
【重要】 適用法規の判断は専門家(弁護士など)に相談することを強く推奨します。ご自身のケースでどの国の法律が適用されるかによって、離婚の成立要件、財産分与、親権、養育費などの判断が大きく変わる可能性があります。
日本での離婚手続きの種類
日本で離婚する場合、大きく分けて以下の3つの方法があります。
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協議離婚(きょうぎりこん) 夫婦間の話し合いで離婚条件(親権、養育費、財産分与など)に合意し、役所(市区町村役場)に離婚届を提出する方法です。最も一般的で、裁判所の手続きを経ないため、時間と費用があまりかかりません。 外国籍の方が協議離婚する場合でも、日本の方式(離婚届の提出)で離婚が成立します。ただし、本国での手続きが必要な場合や、本国法によっては協議離婚が認められない場合もあります。
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調停離婚(ちょうていりこん) 夫婦間の話し合いで合意できない場合、家庭裁判所に「夫婦関係調整調停」を申し立てます。調停委員と裁判官が間に入り、夫婦双方から事情を聞きながら、合意形成を目指します。あくまで話し合いの手続きであり、強制力はありません。合意が成立すれば、調停調書が作成され、離婚が成立します。
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裁判離婚(さいばんりこん) 調停でも合意に至らない場合や、調停が不成立となった場合に、家庭裁判所に離婚訴訟を提起する方法です。日本の法律が適用される場合、民法で定められた離婚事由(不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復しがたい精神病、その他婚姻を継続しがたい重大な事由)が必要となります。裁判官が判決を下し、強制的に離婚を成立させます。手続きが長期化し、費用もかかります。
外国籍の方が離婚する際の特別な注意点
1. 在留資格への影響
配偶者の身分に基づいて日本に滞在している方(例:「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」の在留資格)が離婚する場合、在留資格に大きな影響があります。
- 離婚後、そのままの在留資格で日本に滞在し続けることはできません。
- 速やかに、ご自身の状況に応じた別の在留資格への変更手続きを行う必要があります(例:就労可能な在留資格、定住者など)。
- 手続きを行わないまま在留期限が切れたり、特定の期間(通常は離婚・死別から6ヶ月)内に適切な手続きを行わない場合、在留資格が取り消される可能性があります。
- 日本に長年住んでいる、日本人の実子がいる、といった特別な事情がある場合は、「定住者」などの在留資格への変更が認められる可能性もあります。
離婚後も日本での生活を希望される場合は、早めに出入国在留管理庁や専門家(行政書士など)に相談し、必要な手続きを確認してください。
2. 本国への報告・手続き
日本の方式で離婚が成立しても、ご自身の本国でも離婚を有効とみなしてもらうためには、本国の役所への報告や手続きが必要な場合があります。これは国によって手続きが異なるため、大使館や領事館に確認してください。
3. 氏名の変更
日本人配偶者と結婚して氏名を変更していた場合、離婚後もそのままの氏名を称することも、旧姓に戻すことも可能です。旧姓に戻す場合は、市区町村役場に手続きが必要です。在留カードやパスポートの氏名変更手続きも忘れないようにしてください。
4. 子供に関すること(親権、養育費、面会交流)
夫婦に未成年の子供がいる場合、離婚届を提出する際に親権者を決めなければなりません。外国籍の方が親権者となることも可能です。
- 親権: 日本の裁判所が関与する場合、子の利益を最も優先して親権者が判断されます。
- 養育費: 子供が自立するまでの生活費や教育費として、親権を持たない親から親権者へ支払われます。金額は、親双方の収入や子供の人数・年齢などを考慮して決められます。国際離婚の場合、親の一方が海外に居住していても、一定の国際的な取り決め(ハーグ条約など)により養育費の請求や執行が可能な場合がありますが、非常に複雑です。
- 面会交流: 親権を持たない親と子供が会ったり連絡を取ったりすることです。子の利益を考慮して方法や頻度などを決定します。国際結婚の場合、親の一方が子供を無断で国外に連れ出すといった問題(子の連れ去り)が発生するリスクがあり、国際的な子の奪取に関するハーグ条約が適用されるケースもあります。
これらの子供に関する取り決めは、将来にわたり子供の生活に大きな影響を与えるため、慎重に、できれば専門家の助言を得ながら決定することをお勧めします。
5. 財産分与
夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産を、離婚時に分け合うことです。名義にかかわらず、夫婦共有の財産とみなされるものが対象となります。預貯金、不動産、有価証券、自動車、家具などが含まれます。海外にある財産も財産分与の対象となり得ますが、手続きが複雑になる場合があります。
離婚手続きの流れと必要書類(協議離婚の場合の例)
最も一般的な協議離婚の場合の基本的な流れと必要書類を説明します。調停や裁判の場合は、家庭裁判所の手続きが加わり、必要書類も異なります。
手続きの流れ
- 夫婦で離婚および離婚条件について話し合い、合意する。
- 役所(市区町村役場)指定の離婚届を入手する。
- 離婚届に必要事項を記入し、証人2名(成人の日本人または外国籍の方)に署名・捺印(またはサイン)してもらう。
- 必要書類とともに、夫婦の本籍地または住所地の市区町村役場に提出する。
主な必要書類
- 離婚届: 役所の窓口でもらえます。
- 戸籍謄本: 日本人配偶者の本籍地以外で提出する場合に必要です。
- 本人確認書類: 運転免許証、マイナンバーカード、在留カードなど。
- 印鑑: 届出人のもの(外国籍の方はサインでも可の場合あり)。
- その他: 外国籍の方の場合、以下の書類が必要になる場合があります。
- パスポート
- 在留カード
- 本国の婚姻証明書とその日本語訳(場合による)
- 本国法上、離婚が認められていることの証明書(場合による)
- 本国にある日本の大使館または領事館が発行する、日本の方式による離婚が本国法上有効である旨の証明書(場合による)
必要書類は、届出先の役所やご自身の国籍、本国法の規定によって異なる場合があります。必ず事前に提出先の役所に確認してください。
専門家への相談を検討すべきケース
国際離婚は、通常の離婚に比べて法律や手続きが複雑になることが多く、ご自身だけで進めるのが難しい場合があります。以下のようなケースでは、弁護士や行政書士といった専門家への相談を強くお勧めします。
- 適用法規が不明確な場合: 日本法と本国法のどちらが適用されるか分からない、または両方が関連する場合。
- 夫婦間の合意が得られない場合: 特に親権、養育費、財産分与などで意見が対立している場合。調停や裁判を見据えた対応が必要です。
- 子供に関わる問題: 国際的な子の奪取のリスクがある、海外への子供の連れ出しに不安がある、海外居住の親への養育費請求・執行を検討している場合など。
- 在留資格に不安がある場合: 離婚後の在留資格の変更手続きや、日本での滞在継続について専門的なアドバイスが必要な場合。
- 海外に資産がある場合: 財産分与に海外資産が含まれる場合。
- 本国での手続きについて不安がある場合: 日本で成立した離婚を本国でも有効にするための手続きが分からない場合。
弁護士は法律問題全般にわたり、交渉や訴訟の代理人として活動できます。行政書士は、在留資格関連の手続きや、書類作成などのサポートが可能です。ご自身の抱える問題に合わせて、適切な専門家を選びましょう。
まとめ
日本における国際離婚は、日本の離婚手続きに加え、適用法規、在留資格、本国での手続き、子供に関する国際的な問題など、様々な要素が絡み合い複雑化しやすい手続きです。
まず、ご自身の状況でどの国の法律が適用される可能性があるのか、基本的な手続きはどのようなものがあるのかを理解することが重要です。そして、特に在留資格や子供に関する問題、夫婦間の合意が得られないケースでは、一人で抱え込まず、早めに弁護士や行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。
この記事が、日本で国際離婚に直面された方の手続きの一助となれば幸いです。具体的な手続きや必要書類、適用法規については、必ず関係機関の公式サイトをご確認いただくか、専門家にご相談ください。