外国人向け日本生活ルールブック

日本で相続が発生した場合:外国籍の方が知っておくべき手続きの流れ、遺産分割、相続税の基礎知識

Tags: 相続, 相続手続き, 国際相続, 遺産分割, 相続税, 外国籍, 名義変更, 専門家相談

日本で相続が発生した場合:外国籍の方が知っておくべき手続きの流れ、遺産分割、相続税の基礎知識

日本にお住まいの外国籍の方にとって、日本でご家族やご親族に相続が発生することは、言葉や文化の違いに加え、法制度の違いも相まって、非常に複雑な手続きに感じられるかもしれません。特に、海外に財産があったり、相続人の中に海外に住む方がいたりする「国際相続」の場合は、さらに専門的な知識が必要となります。

この記事では、日本で相続が発生した場合に、外国籍の方が知っておくべき手続きの全体像、遺産分割、そして相続税に関する基礎知識や注意点について、分かりやすく解説いたします。

相続発生後の全体的な流れ

相続は、被相続人(亡くなった方)の死亡により開始されます。その後、概ね以下のような流れで手続きが進められますが、遺言書の有無や相続財産の種類、相続人の状況によって、必要な手続きや順序は異なります。

  1. 死亡の確認と届出:

    • 医師による死亡確認、死亡診断書の受領。
    • 市区町村役場への死亡届提出(原則として死亡を知った日から7日以内)。これにより、火葬・埋葬許可証が交付されます。
  2. 遺言書の確認:

    • 遺言書があるか確認します。自筆証書遺言や秘密証書遺言は家庭裁判所での「検認」手続きが必要です(公正証書遺言は不要)。
    • 遺言書の内容に従って手続きを進めます。
  3. 相続人の確定:

    • 誰が相続人になるかを確認します。民法で定められた法定相続人は、配偶者、子、親、兄弟姉妹などですが、順位や代襲相続のルールがあります。
    • 戸籍謄本などを収集して相続関係を証明します。外国籍の場合、母国の公的書類(出生証明書、婚姻証明書など)とその日本語訳が必要になることがあります。
  4. 相続財産・債務の調査と目録作成:

    • 預貯金、不動産、有価証券などのプラスの財産と、借金などのマイナスの財産(債務)を全て調査し、目録を作成します。
    • 海外にある財産も原則として含める必要があります。
  5. 相続放棄または限定承認の検討(必要に応じて):

    • マイナスの財産がプラスの財産を明らかに上回る場合など、相続したくない場合は「相続放棄」(全てを相続しない)を検討します。
    • プラスの財産の範囲でマイナスの財産も相続する「限定承認」という方法もあります。
    • これらの手続きは、原則として自己のために相続開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で行う必要があります。
  6. 遺産分割協議(遺言書がない場合など):

    • 遺言書がない場合や、遺言書があっても遺産分割方法が指定されていない財産がある場合、相続人全員で話し合い、誰がどの財産を相続するかを決めます。
    • 話し合いがまとまったら「遺産分割協議書」を作成します。相続人全員の実印の押印と印鑑証明書が必要となります。
  7. 相続税の申告と納付:

    • 相続した財産の合計額が一定の基礎控除額を超える場合、相続税の申告と納付が必要です。
    • 相続開始を知った日(通常は死亡日)の翌日から10ヶ月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署に行います。
  8. 相続財産の名義変更:

    • 不動産、預貯金、自動車などの名義を、被相続人から相続人へ変更する手続きを行います。

外国籍の方が特に注意すべき点

相続手続きにおいて、外国籍であることや海外に財産・相続人がいる場合に特有の注意点があります。

1. 準拠法(どの国の法律が適用されるか)

国際相続では、日本の法律が適用されるのか、それとも被相続人や相続人の母国法が適用されるのかが問題となることがあります。日本の「法の適用に関する通則法」に基づき、原則として被相続人の本国法が相続に関する準拠法となります。

準拠法によって、法定相続人の範囲や順位、相続分などが大きく異なる可能性があります。

2. 相続人の確定と証明

日本の戸籍制度は、外国の制度とは異なります。相続関係を証明するために、母国での出生、婚姻、離婚などの公的な証明書(出生証明書、婚姻証明書など)とその日本語訳、そして認証(アポスティーユや領事認証)が必要となる場合があります。これらの書類収集や翻訳、認証には時間と手間がかかることが多いです。

3. 遺産分割協議

相続人の中に海外に住む方がいる場合、全員が一堂に会して遺産分割協議を行うことが難しい場合があります。オンラインでの話し合いや、書面でのやり取りで合意を形成する必要があり、言語の壁や文化的な考え方の違いが影響することもあります。遺産分割協議書への押印や印鑑証明書の代わりに、署名とサイン証明書(またはこれに準ずるもの)が必要になることもあります。

4. 相続税

日本の相続税法は、被相続人と相続人の「居住形態」(日本国内に住所があるかなど)によって課税対象となる財産の範囲が異なります。

また、日本と被相続人・相続人の母国との間に租税条約が締結されている場合、二重課税を排除するための定めがあることがあります。

相続税の計算や申告は複雑であり、特に国際相続の要素が含まれる場合は、税務の専門家である税理士への相談が不可欠です。

各手続きの詳細と注意点

遺言書の確認と検認

遺言書が見つかった場合、それが公正証書遺言でない場合は、勝手に開封せず、速やかに家庭裁判所に提出して検認の手続きを申し立てる必要があります。検認は、遺言書の形状や加除訂正の状態などを確認し、偽造・変造を防ぐための手続きです。

相続財産・債務の調査

預貯金は各金融機関、不動産は法務局(登記簿謄本)、有価証券は証券会社などに問い合わせて調査します。海外にある財産については、現地の協力者や専門家が必要になることもあります。借金や未払いの税金なども見落とさないように調査します。

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議がまとまったら、その内容を記載した遺産分割協議書を作成します。この書類は、不動産の相続登記や預貯金の名義変更など、その後の様々な手続きで必要となります。相続人全員が署名し、実印(またはサイン)を押印し、印鑑証明書(またはサイン証明書)を添付します。

不動産の名義変更(相続登記)

不動産を相続した場合、速やかに相続人への名義変更(所有権移転登記)を行うことが推奨されます。これは義務ではありませんでしたが、2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続によって所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければならないことになりました。正当な理由なく申請を怠ると過料が科される可能性があります。手続きは、法務局に申請書と必要書類(登記済権利証や登記識別情報、被相続人・相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書、住民票など)を提出して行います。外国語の書類には日本語訳が必要です。

預貯金・有価証券などの名義変更・解約

金融機関ごとに定められた手続きに従い、必要書類(遺言書または遺産分割協議書、印鑑証明書、相続人の本人確認書類など)を提出して名義変更または解約を行います。金融機関によって必要書類や手続きが異なるため、事前に確認が必要です。

相続税の申告と納付

相続税の申告書は、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出します。相続財産の評価、相続人の範囲、各種控除(基礎控除、配偶者控除など)を適用して税額を計算します。計算や申告書の作成は非常に複雑なため、相続税に強い税理士に依頼するのが一般的です。申告期限は10ヶ月以内ですが、相続財産の評価などに時間がかかるため、早めに準備を始めることが重要です。

専門家への相談

相続手続きは、特に国際相続が絡む場合、非常に複雑で多岐にわたります。以下のような専門家は、それぞれ異なる側面からサポートを提供してくれます。

ご自身の状況に合わせて、どの専門家に相談すべきか判断が難しい場合は、まずは相続全般に詳しい専門家(多くの場合、最初の相談は司法書士や税理士が適していることがあります)に相談してみるのも良いでしょう。専門家によっては、初回無料相談を実施している場合もあります。

関連情報

相続に関する詳細な情報や最新の情報については、以下の関連機関のウェブサイトもご確認ください。

まとめ

日本で相続が発生した場合、外国籍の方にとっては、日本の相続制度や母国法の確認、国際相続における特別なルール、必要書類の準備など、様々なハードルが存在します。手続きを進める上では、期限が設けられているもの(相続放棄、相続税申告など)も多くありますので、早めに全体像を把握し、計画的に進めることが重要です。

特に国際相続の要素がある場合や、相続人間の話し合いが難しい場合、相続財産が複雑な場合などは、ご自身だけで手続きを進めるのは困難が伴います。相続は人生においてそう何度も経験することではない手続きであり、専門家(弁護士、司法書士、税理士など)のサポートを得ることで、より正確かつ円滑に進めることが可能となります。必要に応じて、信頼できる専門家への相談を検討されることをお勧めいたします。