【外国人向け】日本で会社役員になる際の注意点:在留資格、税金、社会保険、報酬の基礎知識
はじめに
日本でのキャリアを築く中で、会社員から昇進して役員になったり、自身で会社を設立して役員に就任したりする機会があるかもしれません。会社役員は従業員とは異なり、日本の法律や税務において特別な位置づけとなります。特に外国籍の方が役員になる場合、在留資格への影響を含め、様々な注意点があります。
この記事では、日本で会社役員に就任する外国籍の方が知っておくべき、在留資格、税金、社会保険、役員報酬といった主要なテーマについて、その基礎知識と注意点を解説します。役員という立場に求められる責任と、それに伴う法的・税務的義務を正しく理解し、円滑な日本でのビジネス・キャリアを継続するための一助となれば幸いです。
会社役員とは?日本の会社法上の位置づけ
日本の会社法における「役員」とは、主に取締役、会計参与、監査役を指します。多くの場合は取締役として会社経営に携わることになります。役員は、会社から委任を受け、会社の経営判断を行い、業務を執行する責任を負います。従業員とは異なり、会社との関係は雇用契約ではなく、委任契約(または準委任契約)に基づくと解されるのが一般的です。
役員は、会社の機関として株主総会で選任され、株主や会社に対して忠実にその職務を行う義務(忠実義務)や、会社のために善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(善管注意義務)を負います。これらの義務に違反して会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負う可能性があります。
会社役員になった場合の在留資格への影響
外国籍の方が会社役員に就任する際に、最も重要な考慮事項の一つが在留資格(ビザ)です。役員の地位に就くことが、現在持っている在留資格の活動範囲を超える場合や、特定の在留資格の取得要件を満たす必要がある場合があります。
「経営・管理」の在留資格
自身で会社を設立して代表取締役となる場合や、既存の会社の経営に主として携わる役員(代表取締役、常務取締役、監査役など)となる場合、原則として「経営・管理」の在留資格が必要となります。この在留資格を取得するためには、事務所の確保、事業の継続性・安定性、500万円以上の投資(資本金や出資金)、常勤職員2名以上の雇用などの要件を満たす必要があります。役員報酬の額や、その安定性も審査の対象となります。
その他の在留資格で役員になるケース
- 「技術・人文知識・国際業務」などの就労系在留資格: 従業員としてこれらの在留資格を持つ方が、勤務先の会社の役員を兼任する場合などです。この場合、役員としての活動が現在の在留資格で許可されている活動の範囲内であるか、あるいは資格外活動許可が必要か、という点が問題となります。会社の規模や、役員としての職務内容(常勤か非常勤か、経営判断に関わるかなど)によって判断が分かれます。単純な肩書き上の役員であれば問題ないこともありますが、報酬を得て常勤で経営に深く関わる場合は、資格外活動許可では認められず、「経営・管理」への変更が必要となるケースが多くあります。
- 永住者: 「永住者」の在留資格を持つ方は、活動に制限がないため、会社役員に就任することに在留資格上の問題はありません。しかし、役員としての活動を通じて日本に居住し続ける意思があることを、将来の永住許可維持や再入国許可申請時に確認される可能性があります。また、納税義務などの公的義務を適切に履行していることが重要です。
在留資格変更・更新の手続き
役員就任に伴い在留資格の変更が必要な場合は、管轄の地方出入国在留管理局に対して「在留資格変更許可申請」を行う必要があります。役員就任はキャリアにおける大きな変化であるため、特に審査が慎重に行われる可能性があります。事業計画の妥当性、役員報酬の安定性、過去の経歴などが詳細に確認されます。
既に「経営・管理」の在留資格を持っている方が、別の会社の役員に就任する場合や、役員としての活動を継続する場合も、在留資格更新許可申請の際に、引き続き在留資格の要件を満たしていることを証明する必要があります。事業が軌道に乗っているか、役員報酬が安定しているか、納税義務を適切に履行しているかなどが審査されます。
複雑なケースや手続きに不安がある場合は、出入国在留管理に関する専門家である行政書士に相談することをお勧めします。
会社役員の税金
会社役員が会社から受け取る報酬は、原則として税法上「役員給与」として扱われ、所得税や住民税の課税対象となります。役員給与は、原則として毎月一定額を支給しなければ、会社の経費(損金)として認められないなどの特殊なルールがあります(定期同額給与)。不定期なボーナス(役員賞与)は、原則として会社の損金には算入されません。
所得税と住民税
役員給与からは、毎月、所得税が源泉徴収されます。税額は役員給与の額に基づいて計算されます。源泉徴収された所得税は、会社が税務署に納付します。
住民税は、前年の所得に基づいて計算され、その年の6月から翌年5月までの間に支払います。会社員と同様に、役員給与から天引きされる特別徴収が一般的ですが、個人で納付する普通徴収となる場合もあります。
確定申告
役員給与のみを受け取っている場合は、通常、年末調整で所得税の精算が完了するため、個人で確定申告を行う必要はありません。しかし、以下のような場合には確定申告が必要となる可能性があります。
- 会社から給与所得以外の所得(例えば、不動産収入や副業による所得など)がある場合
- 医療費控除、住宅ローン控除(初年度)など、年末調整では控除できない項目がある場合
- 年収が2,000万円を超える場合
- 2ヶ所以上の会社から役員報酬や給与を受け取っている場合
経費の扱い
会社役員は、従業員のように業務に関連する支出を「給与所得控除」として概算で控除することはできません。役員としての活動に必要な経費(例えば、会議費、旅費交通費など)は、原則として会社が負担すべきものであり、役員個人が立て替えても、それが会社の業務遂行上必要なものであれば会社が精算します。役員個人が自己負担した経費を個人の確定申告で控除することは、極めて限定的であり、原則として認められません。
役員報酬や経費の税務上の扱いは複雑なため、税理士に相談することをお勧めします。
会社役員の社会保険
日本の社会保険制度は、会社役員にも適用されます。
健康保険・厚生年金保険
法人の役員は、常勤であるか非常勤であるかに関わらず、原則として健康保険および厚生年金保険の被保険者となります。健康保険料と厚生年金保険料は、役員報酬に基づいて計算され、会社と役員がそれぞれ半分ずつ負担します。保険料は役員報酬から天引きされます。
- 被扶養者: 役員に健康保険が適用される場合、一定の要件を満たす配偶者や子供などを被扶養者として加入させることができます。
- 年金受給: 厚生年金保険の加入期間は、将来老齢厚生年金を受け取るための期間に算入されます。
国民健康保険・国民年金との違い
会社役員として健康保険・厚生年金保険に加入する場合、従業員と同様に、これまで加入していた国民健康保険・国民年金から脱退する手続きが必要になります。健康保険・厚生年金保険は、国民健康保険・国民年金に比べて将来の年金受給額が多くなる可能性がある点や、健康保険の傷病手当金などの保障がある点がメリットとして挙げられます。
社会保険の手続き
役員に就任し、健康保険・厚生年金保険に加入する場合は、会社が所轄の年金事務所に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」などを提出する必要があります。
会社役員に求められる責任と義務
会社役員は、会社法に基づき様々な責任と義務を負います。
- 善管注意義務・忠実義務: 善良な管理者として、会社の職務を遂行し、会社の利益のために忠実に職務を行います。
- 法令遵守義務: 会社の事業が法令に適合するように努めます。
- 競業避止義務: 会社の承認なく、競業にあたる事業を行ってはなりません。
- 利益相反取引の制限: 会社との間で利益が相反する取引を行う場合は、取締役会(または株主総会)の承認が必要です。
- 第三者に対する損害賠償責任: 役員が職務を行うについて悪意または重大な過失によって第三者に損害を与えた場合、その第三者に対して損害賠償責任を負うことがあります。
これらの責任を理解し、適切に職務を遂行することが重要です。
まとめ
日本で外国籍の方が会社役員に就任することは、キャリアアップの大きな機会であると同時に、在留資格、税金、社会保険、そして法的な責任といった様々な側面で、従業員とは異なる特別な注意が必要です。
特に在留資格については、役員としての活動内容によっては「経営・管理」への変更が必要となり、その要件は厳格です。また、役員報酬の税務上の扱いや社会保険の加入義務についても、正しく理解しておくことが重要です。
役員就任は、個々の状況(会社の形態、役員としての具体的な職務、現在の在留資格など)によって考慮すべき点が多岐にわたります。ご自身の状況に合わせて、必要な手続きや義務を正確に把握し、適切に対応するためにも、必要に応じて行政書士、税理士、弁護士といった専門家に相談することをお勧めします。信頼できる専門家を見つけ、アドバイスを受けることで、安心して日本でのビジネス・キャリアを継続することができるでしょう。
より詳細な情報や最新の規定については、関連する行政機関(出入国在留管理庁、税務署、年金事務所など)のウェブサイトをご確認いただくか、専門家にご相談ください。