外国籍の方が日本で会社を設立する際のステップと注意点:ビザ、手続き、専門家
日本で一定期間生活し、キャリアや事業をさらに発展させたいと考える外国籍の方の中には、「自分で会社を設立したい」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。日本で会社を設立することは、ご自身の事業を本格的に展開し、キャリアの選択肢を広げる有力な方法の一つです。
しかし、日本で会社を設立し、ご自身が経営に携わる場合、日本国籍の方とは異なる考慮事項や手続きが必要となります。特に、ご自身の在留資格に関わる重要な手続きが発生する可能性があります。
この記事では、外国籍の方が日本で会社を設立する際の基本的なステップ、特に重要となる在留資格(ビザ)の問題、知っておくべき注意点、そして必要に応じて頼るべき専門家について解説します。
日本で会社を設立するとは?
「会社を設立する」とは、法務局に登記を行い、法律上の「法人」として新たな事業体を立ち上げることを指します。個人事業主とは異なり、会社は事業を行う主体そのものとなり、様々な契約や取引を会社名義で行うことになります。
日本の会社の代表的な形態には、株式会社と合同会社があります。
- 株式会社: 所有と経営が分離している形態が一般的ですが、小規模な会社では所有者自身が経営する場合も多くあります。最も一般的な形態です。
- 合同会社: 出資者全員が有限責任社員となり、経営にも携わることが多い形態です。設立費用や手続きが株式会社より簡略化されています。
どちらの形態を選択するかは、事業の性質や規模、将来的な計画などによって異なります。
外国籍の方が会社設立・経営をする際に重要となる「経営管理ビザ」
外国籍の方が日本で会社を設立し、その会社の経営者や管理者として活動する場合、原則として「経営・管理」という在留資格(いわゆる経営管理ビザ)が必要となります。
現在お持ちの在留資格(例:「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザ)のまま、設立した会社の経営に携わることは、多くの場合できません。事業活動を開始する前に、または設立と並行して、経営管理ビザへの変更許可申請を行う必要があります。
経営管理ビザの主な要件
経営管理ビザを取得するためには、いくつかの重要な要件を満たす必要があります。
- 事業所の確保: 日本国内に事業を営むための拠点(事業所)を確保していることが必要です。単なる自宅の一室ではなく、事業を行う場所として認められる必要があります。賃貸契約を結び、その場所で事業活動を行う具体的な計画が必要です。
- 事業規模: 事業の継続性・安定性を確保するための規模を有していることが求められます。具体的には、以下のいずれかを満たす必要があります。
- 資本金または出資金が500万円以上であること。
- 常勤の職員が2名以上(外国籍の方を除く)いること。
- 上記のいずれかに準ずる規模であると認められること。 資本金500万円以上が、最も分かりやすく一般的な要件クリア方法です。
- 事業の適法性・安定性: 設立する会社が行う事業が、日本の法律に違反せず、事業計画に基づき継続的かつ安定的に運営される見込みがあることが必要です。具体的な事業内容、収支計画、資金計画などが審査されます。
- 申請者の経歴: 会社経営または管理に関する一定の実務経験(通常3年以上)を有しているか、または大学などで経営・管理に関する科目を専攻していたかなどが考慮される場合があります。ただし、資本金500万円以上の要件を満たす場合は、この経験要件が緩和されることがあります。
これらの要件は原則であり、個別のケースによって判断が異なります。複雑な場合は、必ず出入国在留管理庁や専門家にご確認ください。
会社設立の具体的なステップ(外国籍の方が含まれる場合)
会社設立の一般的なステップは日本国籍の方の場合と大きく変わりませんが、外国籍の方が含まれる場合にはいくつかの特別な注意点があります。
- 事業計画の策定: どのような事業を、どのように展開していくのかを具体的に計画します。これは経営管理ビザの申請においても重要な要素となります。
- 会社概要の決定:
- 商号(会社名): 同じ住所に同じ商号の会社がないかなどを確認します。
- 事業目的: 会社の行う事業内容を具体的に定款に記載します。広すぎず、狭すぎず、かつ適法な目的である必要があります。
- 本店所在地: 会社の住所を決定します。これが経営管理ビザの事業所要件と関連します。
- 資本金: 経営管理ビザの要件を満たす場合は500万円以上に設定します。
- 役員: 誰が会社の役員(取締役など)になるかを決定します。外国に居住する方が役員になる場合の取り扱いや、代表取締役の住所要件などに注意が必要です。
- 発起人・出資者: 誰が設立時の出資者になるかを決定します。
- 定款(ていかん)の作成・認証:
- 会社のルールブックである「定款」を作成します。
- 作成した定款は、公証役場で「認証」を受ける必要があります。株式会社の場合、この認証が必要です(合同会社の場合は原則不要)。
- 外国籍の方の印鑑証明書等: 役員や発起人に外国籍の方が含まれる場合、印鑑証明書の代わりに、本国のサイン証明書や居住証明書などが必要となる場合があります。事前に公証役場に確認することをお勧めします。
- 資本金の払い込み: 決定した資本金を、発起人代表(または指定された役員)個人の日本の銀行口座に払い込みます。この払い込みがあったことを証明する書類(通帳のコピーなど)が必要になります。
- 設立登記申請: 必要書類を揃え、会社の所在地を管轄する法務局に設立登記を申請します。この登記が完了した日が会社の設立日となります。
- 設立後の手続き: 会社設立登記が完了したら、税務署、都道府県税事務所、市町村役場への届出、年金事務所での健康保険・厚生年金保険の加入手続き、ハローワークでの雇用保険の手続きなどを行います。従業員を雇用する場合は、労働基準監督署への届出も必要です。
外国籍の方が特に注意すべき点
- 在留資格の変更・取得: 会社設立はあくまで法的な手続きであり、それだけで日本で経営者として合法的に活動できるわけではありません。経営管理ビザの取得または変更申請は、会社設立と並行して、または設立直後に行う非常に重要な手続きです。計画的に進める必要があります。
- 資本金の出所: 経営管理ビザの要件である資本金500万円は、単に金額があれば良いのではなく、その資金の出所が適法かつ明確である必要があります。
- 事業計画の具体性: 経営管理ビザの審査では、提出する事業計画書が非常に重要視されます。絵に描いた餅ではなく、現実的で実現可能性の高い計画である必要があります。
- 役員の住所・資格: 役員に外国に居住する方が含まれる場合、手続きや必要書類が複雑になることがあります。また、代表取締役については、日本に住所を有することが求められる場合があります(ケースバイケース)。
- 銀行口座の開設: 法人名義の銀行口座開設は、設立直後の新しい会社にとっては容易ではない場合があります。設立登記完了後の手続きとなりますが、事前に利用予定の金融機関に相談してみることをお勧めします。
- 専門家への相談: 会社設立の手続きは専門知識が必要です。特に外国籍の方が含まれる場合は、在留資格の申請も伴うため、専門家のサポートが不可欠となる場面が多くあります。
どのような専門家に相談すべきか
会社設立と経営管理ビザ申請に関連して、主に以下の専門家がサポートを提供しています。
- 行政書士: 経営管理ビザの申請手続きの専門家です。事業計画書の作成サポートや、必要書類の収集・作成、入管への申請代行を依頼できます。会社設立後の各種許認可(事業内容によっては必要)の申請も依頼できます。
- 司法書士: 会社設立登記手続きの専門家です。定款作成、公証役場での手続き、法務局への登記申請代行を依頼できます。
- 税理士: 会社設立後の税務署への届出、日々の経理・税務申告、決算業務、タックスプランニングの専門家です。設立後の会計や税金に関するアドバイスを得られます。
これらの専門家はそれぞれ得意分野が異なりますが、連携して手続きを進めることも可能です。最初に誰に相談すべきか迷う場合は、会社設立とビザの両方に詳しい行政書士に相談するか、または設立登記に詳しい司法書士とビザに詳しい行政書士の両方に相談することをお勧めします。多くの専門家が無料相談を提供していますので、まずは相談してみるのが良いでしょう。
まとめ
外国籍の方が日本で会社を設立することは、決して簡単なプロセスではありませんが、適切な準備と手続き、そして必要に応じた専門家のサポートがあれば実現可能です。
特に、経営管理ビザの取得は会社設立と並行して考慮すべき非常に重要な点です。資本金の要件、事業所の確保、そして実現可能な事業計画の策定が鍵となります。
この記事で解説した内容が、日本での会社設立という新たな一歩を踏み出すための情報としてお役に立てれば幸いです。個別の状況や最新の情報については、必ず関連省庁の公式サイトをご確認いただくか、専門家にご相談ください。
- 関連情報:
- 出入国在留管理庁ウェブサイト(在留資格に関する情報)
- 法務局ウェブサイト(会社・法人登記に関する情報)
- 国税庁ウェブサイト(税に関する情報)
- 日本行政書士会連合会ウェブサイト(行政書士検索)
- 日本司法書士会連合会ウェブサイト(司法書士検索)
- 日本税理士会連合会ウェブサイト(税理士検索)